【No.517】
アクティブラーニング(能動学習)からディープラーニング(深い学習)へ(その6):国際的視点からの大学教育の未来、ルーブリックとシラバス

○●○ アクティブラーニング(能動学習)からディープラーニング(深い学習)へ(その6):国際的視点からの大学教育の未来、ルーブリックとシラバス ○●○

昨年に続き、日本高等教育開発協会主催、第4回高等教育開発フォーラム(9月18-19日、於新潟医療福祉大学)[1]に参加する機会を得たので、基調講演及びセッションで得た教育開発の視点を報告する。基調講演は、カルフォルニア州立大学フラトン校Victonia Costa氏により「今後の日本の大学教育を考える―国際的視点から(原題:Considerations for the Educational Development of Japanese Higher Education (from a U.S. Perspective))」のテーマで、5つの状況の変化から見た大学教育の未来像への視点を議論した。グローバル化のもとで、または情報・知識基盤型社会への急速な転換のもとで、学生にも教育にも否応なしに変化が生じている。

1)教室:グローバル化・デジタル化・グリーン(環境への責任)による変化

 21世紀の教室は、だれでも、いつでも、どこでも、いかなる方法でも学ぶことができる。特に、異なる場所で、異なる時間に学ぶことのできる可能性は、既存の教室の概念とは異なる。

2)学生:テクノロジーに満たされ、社会的価値に敏感で、本物・経験志向である

 マルチタスク=並列・同時に多くの情報を選別できる学生は、講義で得た情報はインターネットで即時に調べあげられ、そのまま理解するのではない、コンテンツの創造や再構築に向かう。

3)学習プロセス:動的で生涯続く学びのプロセス・21世紀型の知識とスキル

 これまでの教育が、農業従事型あるいは工場従事型であったのに対し、知的労働従事型の世代に入っている。この世代に求められる21世紀型知識は、構築(construct)・再構築(remix)・マッシュアップ(mashup)である。複数の知識から新しい知を生み出す様子は、学際性といってもよい。提唱されている21世紀型スキル(Core Subjects / Life & Career Skills / Learning & Innovation Skills / Information, Media, & Technology Skills)の内、最も重要なものは4Cと呼ばれる学習・イノベーションのスキル、Critical Thinking – Communication – Collaboration – Creativity である。

4)大学教授:21世紀型スキルを教える21世紀型の大学教授の仕事

 7つの要素として、効果的なカリキュラムデザイン、学習環境の保証、様々な教育/学習ストラテジーの使用、学生パフォーマンスのアセスメント、特化した学習素材の作成、テクノロジーの応用、専門家としての実践の拡張がある。特に「ストラテジー」として、日本のシラバス(=科目要覧の意味が強い)と異なる15ページもあるようなシラバス、採点指針(scoring guide)、採点ルーブリック(scoring rubric)を用いた学生とのコミュニケーション(communication)が図られている。よいルーブリックを示された学生は課題の質も高く、学部・学科で開発されたルーブリックはwebで公開されいつでも見ることができ、異なる教員でも同じルーブリックを使うことで公平さが保たれている。

5)学ぶべき内容

教え方も4Cの影響を受けているが、問題解決のためにペア・ワークなどの協調学習(collaboration)、critical thinkingとcreativityを促すコンテンツのリミックスやマッシュアップが知識獲得に必要となる。

これら5つの状況の変化を通して、大学教授は大学・学生・コミュニティ・社会へよい影響を及ぼすために、コースのリデザイン、アセスメント・ストラテジーの拡張、4Cの促進をなすべきであるという結論であった。フロアを交えた議論では、日米の違いや受身志向の学生への対応などの共通点について活発な情報交換がされた。そして、現在の日本の大学では「主体的な学習」をアクティブ・ラーニングに求めている一方で、21世紀型スキルは認知的側面に注目しているために対応する概念やストラテジーが含まれていないことへの気づきがあった。日本で求められている学生の主体性が持つ自己矛盾(強いられた主体性?)について、国際的視点からも見極めなくてはならないと考える。

 

分科会セッション:シラバスとルーブリックの開発(上越教育大学・城間祥子氏)では、基調講演で頻繁に示された教育/学習ストラテジーであるシラバスとルーブリックについて、改めて振り返る機会であった。

シラバスが日本に導入された際、大学の用意する様式の影響もあってか授業選択のためのコース・カタログに近い機能にとどまる場合が多いが、本来は学習のガイドマップとして学習効果を高める文書である。最近は、ディプロマ・ポリシーとの関係、授業時間外学習、授業の方法などを特記するなど、大学様式とは別の第2シラバスを使い分ける教員も増えてきている。シラバスに必ず含まれる目的(一般目標)、到達目標、成績評価の方法をより強力にするために、ルーブリックは分かりやすいツールとなっている。

ルーブリックは、センターニュースのバックナンバーでも紹介してきたように、観点と尺度からなる表に具体的な評価基準を示すものである。質の公平さ、すばやいフィードバック、熟達の過程を示すことができるなどメリットは多いが、ゼロから作成するにはややハードルが高い。組織としてすり合わせることや、もとになる共通ルーブリックを参考にカスタマイズするなど、教師と学生を結ぶ以上に、ルーブリックを介した体系的なカリキュラムの構築に可能性を見出すことができる。学生の学習を促す効果だけではなく、個々の大学教師の学習/総体である大学組織の学習が促されるという入れ子構造を、ルーブリックは我々に見せてくれようとしている。その現在の姿と歩みこそが、大学教育の確かな未来となっているのだという瞬間が、時折、垣間見えてきている。

(文責 教育支援システム研究部門 杉森公一)



[1]プログラムは、日本高等教育開発協会(JAED)ウェブサイト参照 http://jaed.jp/jaedweb/