【No.516】
国際シンポジウム「学問分野のチューニングによる学位プログラムの設計 - ユタ州立大学と米国歴史学会の経験から導く政策への示唆 -」参加報告

○●○国際シンポジウム「学問分野のチューニングによる学位プログラムの設計 -ユタ州立大学と米国歴史学会の経験から導く政策への示唆-」参加報告○●○

  8月28日(木)に開催された国際シンポジウム「学問分野のチューニングによる学位プログラムの設計 -ユタ州立大学と米国歴史学会の経験から導く政策への示唆-」(国立教育政策研究所主催)に参加した。深堀聰子氏(国立教育政策研究所高等教育研究部総括研究官)による「Tuning- AHELOテスト問題バンクから始めるグローバル質保証トータルパッケージ -コンピテンス枠組みの共有と水準規定から学位プログラム設計へ-」、ダニエル・マッキナーニー氏(ユタ州立大学歴史学部教授・副学部長)による「歴史学分野のチューニング‐ユタ州立大学と米国歴史学会の取組」、川島啓二氏(国立教育政策研究所高等教育研究部長)による「チューニングから大学教育改革を「再読」する」の3つの講演の後、合田哲雄氏(文部科学省研究振興局学術研究助成課長)、岸本喜久雄氏(東京工業大学大学院理工学研究科工学系長)を加えてのパネルディスカッションが行われた。本稿では、ダニエル・マッキナーニー氏の講演を中心に紹介し、個別学問分野、個別学部におけるチューニング[1]の取り組みへの示唆としたい。

 先ず、チューニングの特徴についての説明が行われた。一般的にトップダウンで画一的(one size fits all)かつ外部と隔離されているとされる従来型の大学および大学教育への評価と異なり、チューニングでは、大学教員主導、学問分野別、他大学教員との共同作業、ステークホルダーとの協議、明快で透明性のある記述、幅広い情報の共有が行われている。チューニングでは、これまでは暗黙の了解とされていた「学生がある学問分野の学位プログラムを修了したとき、何を知り、理解し、実行できるようになっていることが期待されるのか」を明示的に示すことが出来る。チューニング・プロジェクトのきっかけはボローニャ・プロセスである。ボローニャ・プロセスにおける学位プログラムの比較可能性を実現し、高等教育の社会的レリバンスを高める手段として、「多様性と自律性を尊重するという前提のもとに教育制度と学位プログラムの調和を目指し、画一性ではなく関係性の構築を目指した」チューニング・プロジェクトが動き出した。Tuning USAは、Lumina Foundation[2]、Hewlett Foundation[3]の援助のもと、ユタ州、ミネソタ州、インディアナ州、ケンタッキー州、テキサス州、イリノイ州、ミズーリ州と活動地域を拡大してきている。歴史学分野としては、2012年より米国歴史学会(American Historical Association)[4]が30余りの州、70の高等教育機関でチューニングを進めている。

 次に、ユタ州立大学歴史学部におけるチューニングの取り組み(8つのステップ)について紹介があった。

1

懐疑的な意見や懸念に耳を傾ける(葛藤や苦情が果たす機能を尊重)

卒業研究(capstone)の課題、出口段階から考える:学生の現段階での考え方に寄り添う(教員としてどうなって欲しいかではなく)

2

世界の先行事例から出発する。

欧州/英国/豪州のラーニング・アウトカム、主要な専門団体(ここでは、米国歴史学会)の資料、http://www.unideusto.org/tuningeu/

http://www.tuningjournal.org/index.php/tuning

3

注目するアウトカムを絞り込む

歴史学の知識、歴史学の考え方、歴史学のスキル

4

取り組みを徐々に発展させる

暫定版「ラーニング・アウトカム」作成、全てのシラバスにアウトカムを明記、「ルーブリック」の見本作成、卒業研究科目(capstone)ではルーブリックを共有、「評価者間信頼性」を育成、入門科目の改善

5

学問分野の外の人々との対話

大学教員、学生、雇用主を対象とした調査、雇用主のグループインタビュー

6

多様な尺度の活用

授業マネジメントソフト、ルーブリック、授業評価システム、eポートフォリオ、卒業生「出口」インタビュー、学習成果に対応する課題

7

意図された順序性のある教育プログラムの構築:「プレ・主専攻」

改革前:科目の無作為な集合体

改革後:知識・思考・スキルの水準に順序性を持たせる、一般教育科目の推奨履修モデルの提示、入門・歴史科目

8

学生とのより明確にコミュニケーション

学部「履修要項」見直し、卒業に向けたチェックリストを学習の手引きへ、学生の歴史学オナーズソサイエティ(Phi Alpha Theta History Honor Society[5])活用

 ユタ州立大学では学内的に上記8ステップによるチューニングを進めるとともに、学問分野別会合、大学教育を通して育成する人材像設定、関係者が一堂に会するチューニング会合、雇用主との対話、専門調査会社の活用などによりユタ州レベルでの学問分野コアの開発も行っている。学問分野コアの開発が学位プログラムの開発につながり、学位資格プロフィール(Degree Qualification Profile)策定へとつながっている。学位資格プロフィールとは、大学での学習を明示・記述することにより、米国の学位を定義するものであり、学問分野の知識、後半で統合的な知識、知的スキル、応用力、市民性などの能力を示しており、レーダーチャート形式でその修得度合を見ることが出来る。

 このように米国でもチューニングは一部地域、分野では進められている。金沢大学においても教育プログラムの国際通用性を高めるためにも、科目ナンバリングと合わせて取り組むべき課題の一つではないだろうか[6]。(文責 評価システム研究部門 堀井祐介)

 

●○●第18回カリキュラム研究会・第16回評価システム研究会合同開催のお知らせ●○●

日時:9月29日(月)14時30分~16時 場所:総合教育1号館2階大会議室

テーマ:学士課程の学習成果(Learning outcomes)のグローバルスタンダードについて考える

発表者:西山宣昭(大学教育開発・支援センター)

趣旨:現在、全学に向けて提示されている金沢大学<グローバル>スタンダード(案)は、学士課程<グローバル>スタンダードと大学院課程<グローバル>スタンダードとからなり、前者は本学の学士課程教育の学習成果としての5つの能力を明文化したものである。今後、これらの全学が共有する学習成果を各学類の専門分野の文脈で解釈した上で、各学類が定める既存の学習成果を整合させる必要がある。また共通教育の新しいカリキュラム、コア科目についての検討の指針となる。本研究会では、本学の学士課程<グローバル>スタンダードとAC&U(The Association of American Colleges and University)が提示しているリベラル・アーツ教育の16の学習成果モデルとの対比について考察しながら、5つの能力を曖昧さなく理解することを目的とする。



[1]チューニングについては、『週刊センターニュースNo.426』で簡単に紹介しているのでそちらを参考にしていただきたい。http://herd.w3.kanazawa-u.ac.jp/news/2012/201210_426.html

[2]http://www.luminafoundation.org/

[3]http://www.hewlett.org/

[4]http://www.historians.org/

[5]http://phialphatheta.org/

[6]『週刊センターニュースNo.500』http://herd.w3.kanazawa-u.ac.jp/news/2014/201405_500.htmlで紹介した欧州のTUNING Educational Structures in EuropeでのSubject AreasとSpecific Competences参照基準、英国Quality Assurance Agency for Higher Education(QAA)のSubject benchmark、日本学術会議の「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準」も参考になれば幸いである。