【No.513】
アクティブラーニング(能動学習)からディープラーニング(深い学習)へ(その5):教師と学生を結ぶ互学互修、学びのハシゴを結ぶ認知カウンセリング

○●○ アクティブラーニング(能動学習)からディープラーニング(深い学習)へ(その5):教師と学生を結ぶ互学互修、学びのハシゴを結ぶ認知カウンセリング ○●○

8月7日に発表された学校基本調査(速報)[1]では、大学・短大・高専・専門学校を合わせた進学率が80.0 %、大学・短大への進学率が56.7%であった。特に大学のみの進学率は、過去最高の51.5%であり、ユニバーサル・パーティシペーションの時代への移行が進んでいる。すべての高校生が大学教育段階への教育接続をなしうるためには、高校教育改革と一体となっての長期の教育開発の針路を模索する必要がある。8月20日には、教育再生実行会議の第三次答申および第四次答申を受けた公募事業、大学教育再生加速プログラム(通称:AP)の採択校の発表があった。I:アクティブ・ラーニング、II:学修成果の可視化、III:高大接続・入試改革の3テーマから選び、これまでの全学的な教育改革を1階部分に見立てた上での、2階立て分の学部・学科以上を単位とした今後5年間の取組みを補助する事業である。250件の大学・短大・高専からの申請校のうち最終的に46件が採択され、金沢大学は、国立大学では北陸唯一の採択(テーマI・II複合型)を受けた[2]。採択率が約20%という中で、本学に求められたことは、アクティブ・ラーニングの実践を通した大学教育モデルの探究である。教育と学習の理想の姿をかたちづくるために、優れた実践をただ引き写すのではなく、第三者として評論するにとどまらない、関わりのあるすべての教職員と学生が主体となって共に大学教育を行うために、我々は行動する契機を得たのである。

本稿では、大学生協連合会主催PCカンファレンス2014(8月8-10日、於札幌学院大学)の基調講演、日本リメディアル教育学会第10回記念全国大会(8月20-22日、於東京電機大学)の基調講演及びワークショップの参加報告により、アクティブ・ラーニングの目指す姿の現況をお伝えする。

PCカンファレンス2014では、妹尾堅一郎CIEC会長による「“コンピュータ利用教育”を再考する。イノベーション社会における知の変容と多様化」基調講演[3]により、グローバルとローカルの相似と相違、ユニバーサルとユニークの継続と断絶を起点にした「地方」教育の未来への話題提供が行われた。教育とは「学習者の創造」にあり、「皆と同じことが言えるか、他と違うことが言えるか」という相似(グローバル)と相違(ローカル)の構造の多義性が学習のイノベーションとしても必要である。妹尾氏がCIEC会長として長らく主張してきた『互学互修』の概念が生きる。アクティブ・ラーニングの実践の起点に、教授から学習への転換があると言われているが、ICT 技術は教育のクラウド化など教育の変革をますます促すことになろう。続けての熊坂賢次・慶応大学教授の基調講演「地方からの学びのイノベーション」が示した方向付け=教師と学生の関係が、権力関係から交換関係へ、さらに協働関係へ移行し、学生の学びは「創発と貢献」に価値が転換する。これは、福沢諭吉が150年前に論じた『半学半教』の精神、創りながら学び学びながら創るという、教育の在り方を根本から変えることにつながるだろう。

日本リメディアル教育学会では、市川伸一・東京大学教授による基調講演「認知理論を教育実践に生かす」もまた、学習観の転換への指針と教育の在り方を捉え直す点で同期している。提案されている認知カウンセリングとは、情報処理的人間観とカウンセリング・マインドを融合させた個別相談・指導のことである。生徒の学習上のつまずきを支援するためには、本学会の主目的であるようなリメディアル教育あるいは学習支援の様々な取組みがなされてきているものの、その生徒の学習法の問題点の所在を明らかにするような個別の取組みはこれからである。学習観の転換を、学習方法に関して、練習量重視・丸暗記傾向・結果重視・落胆傾向という非主体的なモードから方略重視・意味理解重視・過程重視・失敗活用といった理解を重視したモードへの転換とする。近年の学習指導要領は、教えずに考えさせる授業(表層的には、協同的なアクティブ・ラーニングの手法そのものにみえる)によって詰め込み・教え込みからの脱却を図ってきていたが、それでは理解に焦点を当てた学習観の転換は結ばない。理解を伴う深い学習のためには、教師からの説明を起点に、理解確認課題・理解深化課題・自己評価活動が配置された『教えて考えさせる授業』が必要である。これは、知識伝授のプロセスを授業外のショートビデオ等に置く、反転授業の概念との一致が見てとれる。習得と探究のバランスを図ることこそ、研究者としての大学教師の力量に見合う授業スタイルではないだろうか。

このような学習観の転換にあたって、大学教育は何ができるのであろうか。その問いには、この4月から聖学院大学(埼玉県)の学長に就任した姜尚中氏による記念講演「いま若者のために大学ができること」に強い感銘を受けた。今日の大学教育では、その離学者の7割がワーキングプア・非正規雇用へつながってしまうという現状の中で、リメディアル教育のような教育開発の位置づけはますます重要性を増している。しかし、大学教職員には、教育者としてのpedagogyがなく、学部・学科の独立性がその樹立を阻んでいる状況のもとにある。大学の組織改革を達成するには、教育研究者の学際的な視点、学部・学科を越えてブレーンストーミングを行い、何を基本的な原理・原則とするのか、学力とは何かの根源的な議論=民主的な意思決定が大切である。

属人的な取組みに終わらないために、学生を大切にするという観点で(姜氏の言葉では、いまの時代ほど学生を踏みにじっている時代はない)、トップダウンとボトムアップの協同的・探究的な大学づくりを私たち一人ひとりが考えなくてはならないのではないだろうか。

次の世代へ、新しい大学を創るために、学生と教師と社会が協働し、教育における格差・段差・落差をつなぎ結ぼうとする努力が、大学人に求められる社会的正義と使命であろう。

(文責 教育支援システム研究部門 杉森公一)

○●○ 大学間連携共同教育推進事業「学都いしかわ・課題解決型グローカル人材育成システムの構築」FD・SD研修会「地域で学ぶ、地域と学ぶ」第6回のお知らせ ルーブリックの導入実践 ○●○

日時:9月29日(月)18:30~20:30  会場:金沢大学サテライトプラザ 2階 講義室
詳細:http://gakuto.ucon-i.jp/wp/wp-content/uploads/2014/08/FD20140929.pdf



[1]学校基本調査—平成26年度(速報)結果の概要—(文部科学省)http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/26/08/attach/1350731.htm

[2]平成26年度「大学教育再生加速プログラム」の選定状況について(文部科学省)http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/kaikaku/ap/1350948.htm

[3]日経PCオンライン「教育とICTの学会「PCカンファレンス」が開幕」2014/8/8 http://pc.nikkeibp.co.jp/article/news/20140808/1139503/