【No.512】
平成26年度大学質保証フォーラム参加報告

○●○平成26年度大学質保証フォーラム参加報告○●○

 8月1日(金)に一橋講堂(学術総合センター2階)で開催された大学評価・学位授与機構(NIAD-UE)主催「平成26年度大学質保証フォーラム 大学の多元的道しるべ ランキング指標を問う」に参加した。フォーラムの趣旨は、「我が国の政策動向とそこで用いられているランキングや指標について概観しつつ、EUで先駆的に実施されているU-Multirankの活用について紹介します。その上で、大学が、自律的に自らの位置づけを多面的な視点から明らかにして、戦略的に計画を推し進めるために何が必要なのか、また高等教育政策においてこうしたあらゆるデータをどのように活用し、内部質保証の取組みを活性化できるのかについて議論を深めます[1]」であった。プログラムは、トウェンテ大学(オランダ)高等教育政策研究所上級研究員であるドン・ウェスターハイデン氏[2]の基調講演、文部科学省、国公私立大学、NIAD-UEそれぞれからのメンバーによるパネルディスカッションで構成されていた。なお、当日の資料は、大学評価・学位授与機構のWebページにアップロードされている[3]

 基調講演では、欧州において常に強調される高等教育における多様性(diversity)の重要性を説明した後、多様性をマッピングするツールとしてのU-Map[4]、多元的・利用者本位のランキングであるU-Multirank[5]の紹介が行われた。高等教育における多様性は、多様な学生にアクセス可能環境を提供する、社会的流動性を高める、労働市場からのニーズに応える、地域活性化につなげる、多くのステークホルダーのニーズを満たす、などのために必要である。また、高等教育においては、機関の多様性、教育プログラムの多様性、垂直的多様性(世界クラス、特定の分野で優れている、特定の分野で劣っている)、水平的多様性(異なっている、しかし、対等である)、など様々な面で多様性を考慮する必要がある。このように考えると、既存の大学ランキング[6]は、学内の相違を無視した大学全体に重点を置いたものになっている、伝統的研究の生産性やインパクトを重視、総合研究大学に焦点を当てている、文化的・言語的偏りがある、人文・社会科学に不利、など上記多様性を考慮していない。U-Map、U-Multirankは、多様性の点から既存のランキングを批判して構築されたものである。

 U-Mapでは、教育・学習プロファイル、学生プロファイル、研究、知識交流、国際性、地域貢献の6つの分野において、経験により立証可能で、信頼性のある、実証的データに基づく、階層的でなく、複数の関係者からの多元的な視点、記述的であって規範的でない、などの設計原則により各大学の活動が分類されている。これらの分類における分野と指標に基づき、大学の実際の活動を示し、ステークホルダーに情報提供可能で、戦略的経営のためのツールともなる大学プロファイルが作成されている。

 U-Multirankは、多元的に高等教育機関の活動、成果をとらえ、教育・学習、研究、知識移転、国際性、地域貢献の5つの分野において、大学機関別、専攻分野別[7]に指標を設定し、比較可能な情報を提供するシステムである。U-Multirankにおいては、大学全体としての総合点はない。それは、他のランキングで用いられている指標毎のスコアの加重合計(総合点)が正しいとする理論的・経験的な根拠はないとする考えに基づいている。その上で、大学、または、専攻分野を比較したい利用者が比較したい分野毎に成果指標を比較できる仕組みが構築されている。2014年8月4日時点で74ヶ国、850以上の大学、1,000以上の学部、5,000以上の教育プログラム、6万人以上の学生が関与している。ちなみに金沢大学も研究、知識移転、国際性、地域貢献の分野においていくつかデータを提供しU-Multirankに参加している。U-Multirankは、総合点による「世界トップ100」があまり意味がないという立場から、多様な指標それぞれについて比較するものであり、学生、保護者、研究者、政策立案者、大学運営者が意思決定のためのツールとして使うものである。

 引き続き行われたパネルディスカッションでは、「高等教育における「可視化」をめぐる最近の動向」(文部科学省大臣官房審議官 義本博司氏)、「研究におけるデータの戦略的活用」(岡山大学理事・副学長(研究) 山本進一氏)、「教育研究にかかる情報の定量化と活用について」(金沢工業大学常任理事・産学連携推進部長 谷正史氏)、「公立大学の評価と質保証」(兵庫県立大学学長特別補佐・教授 浅田尚紀氏)、「大学の多様化・機能強化と指標の調和に向けて」(大学評価・学位授与機構研究開発部准教授 林隆之氏)による報告の後、データをどのように活用するのか、活用する際の環境整備の2点について議論が行われた。

データ活用については、「ピアによる主観だけでなく、データに基づく適切な分析による資源配分が重要、学生データなどの個人情報は情報漏洩防止と情報活用とのバランスが重要、教員評価のデータは可能な限り公表する(しかし、ランキング化はしない)、データ公表とデータ活用は裏腹の関係、データだけでなくプロファイル的分析も重要、データの出てきた背景を考えて扱う(各大学の個性につながる目標・考え方に則って分析する)」などの意見、コメントがあった。環境整備については、「学校基本調査のより積極的な活用、大学ポートレートに期待している、大学ポートレートの国際発信も検討している、個別の数値の経年変化を見ることが大事(点ではなく、面としてのインフラに)、初等・中等教育の教員も見てみたいと思えるようなデータインフラを整備する、数値データと政策形成のリンクも重要、学生調査も重要」という意見、コメントがあった。また、データ分析環境についても、機関レベルデータ、全国統計調査、国際比較データ、学生調査の4種のデータがあり、それぞれを使い分けながら教育改善につなげることが重要であるとの認識が示された。国際比較データの例として、OECD Education at Glance[8]やEuropean Tertiary Education Register (ETER)[9]なども紹介された。

 以上、見てきたように、今回の質保証フォーラムは、上で紹介した趣旨文にあるとおり高等教育関連データの扱い方、読み方を中心に、教育質保証を考えるというものであった。もちろん教育に関してデータだけで全てを語ることは出来ないが、教育活動の質保証において根拠となる客観的データが世界的に求められているのも事実である。大学機関として、部局として、教員個人として、自らの活動を広く示し、教育改善につなげていくためにも教育活動関連データが重要であることを改めて認識させられた。(文責 評価システム研究部門 堀井祐介)



[1]http://www.niad.ac.jp/n_kenkyukai/1243451_1207.html

[2]Don F. Westerheijden, Senior research associate, Center for Higher Education Policy Studies(CHEPS), University of Twente

[3]http://www.niad.ac.jp/n_kenkyukai/1243451_1207.html#materials

[4]http://www.u-map.eu/

[5]http://www.u-multirank.eu/#!/home?trackType=home

[6]Times Higher Education Supplement World Rankings http://www.timeshighereducation.co.uk/world-university-rankings/

Academic Ranking of World Universities http://www.shanghairanking.com/ など

[7]現時点では、物理学、電気工学、機械工学、経営学。2015年からは心理学、コンピューター科学、医学が加わる予定。

[8]http://www.oecd.org/edu/eag.htm

[9]http://ec.europa.eu/education/tools/education-register_en.htm