【No.510】
障害学生への合理的配慮を考える-その⑤「教育再生実行会議第五次提言」から-

○●○障害学生への合理的配慮を考える-その⑤「教育再生実行会議第五次提言」から-○●○

 7月3日、教育再生実行会議『今後の学制等の在り方について(第五次提言)』が発表された。これを受けて、7月29日の中央教育審議会では、下村博文文部科学大臣が「小中一貫教育の制度化」や「教員免許制度の見直し」などについて諮問した。小中一貫教育における9年間の区切りや、小中双方で指導できる教員養成のあり方などについて議論が進められ、年内にも答申が出される見通しであり、文部科学省は、来年の通常国会で関連法改正を目指しているとされ、早ければ平成28年度から新しい制度が導入されることになる。学校教育全体に大きな影響を与える改革であることは間違いない。

 さて、第五次提言では、次のような提言も含まれている。

「改革を実現に導くには、子供一人一人の可能性を引き出し、能力を伸ばしていく教師の存在が不可欠であり、その資質・能力の向上や配置の充実を一体のものとして行わなければなりません。教師が自らの人間性や専門性を発揮して子供を教え導くことができるよう、学制改革の機会を捉え、免許、養成、採用、研修、配置、処遇などの制度全般の在り方を考える必要があります」として、方策の一つとして、「学力の定着等に課題を抱える児童生徒や、発達障害児を含む特別支援教育を必要とする児童生徒に対して、きめ細かい指導や社会的自立に向けた支援を行うことができるよう、国及び地方公共団体は、教師の専門的指導力の向上とともに、教職員配置や専門スタッフの充実を図る。教師が特別支援教育に関する知識・技能を身に付けることができるよう、特別支援学校の教師は必須化も視野に入れ、特別支援学校免許状の取得を促進する」というものである。

 この提言についても、実現が図られるものと予想される。

 振り返れば、内閣が「社会へ向けた自立の基盤づくり(障害のある人が社会的に自立するために必要な教育・育成、雇用・就業等) 1 障害のある子の教育・育成  学校教育においては、障害のある児童生徒等が、その能力を最大限に伸ばし、自立し社会参加するための基盤を培うため、一人一人の障害の種類、程度等に応じた教育を行なっている」と書かれた「平成12年度障害者のために講じた施策の概況に関する年次報告について(平成13年版「障害者白書」)」を公表して、十数年経つ。障害者白書は、障害者基本法「(年次報告)第十三条 政府は、毎年、国会に、障害者のために講じた施策の概況に関する報告書を提出しなければならない」により、内閣が国会に提出するものである。白書に書かれた、今からすれば目標とも読める事項が、切れ目の無い特別支援教育の実質化としてようやく、具体化されようとしている。

 この連載で繰り返し指摘していることだが、こうした動きの背景にあるのは、障害者権利条約の批准であり、そのため昨年新たに作られた法律、障害者差別解消法の平成28年4月1日施行である。障害者差別が現に存在していることを国として認め、それを解消することに官民挙げて取り組むことを、政策として確認したわけである。教育についても、義務教育段階は当然のこと、高等学校でも大学等でも、教育を受ける機会の均等の徹底を図らなければ、差別となり人権問題となる。

 それでは、なにが、合理的配慮が欠けていて、差別につながると考えられるのか。

 日本で初めて、自治体として障害者差別をなくすことを謳った「障害のある人もない人も共に暮らしやすい千葉県づくり条例」(平成19年7月1日施行)の関連サイトは参考となる。具体的な事例として、関連ウェブサイト「千葉県障害福祉課に寄せられた「障害者差別に当たると思われる事例」」(http://www.pref.chiba.lg.jp/shoufuku/iken/h17/sabetsu/kyouiku.html)から引用してみる。 

まずは、発達障害の子どもたちについてである。「事例 知的障害(広汎性発達障害)の男子の親。学童保育の利用申込をしたところ、個別面談を求められ、子どもを観察する前から「多動じゃないの?」「ウチの学童はおとなしい障害児を求めている」などと決めつける発言あり。1週間の試行期間中も「早く迎えに来い」「一人1個のおやつを2個も3個も食べた」と嫌味を言われ続けた。入所の判定通知もこちらから問い合わせてやっと来る始末。結局入所は却下され退所させられた。学校のクラス担任も学童保育に預けることに大反対。市職員・学童指導員・教員がこういう発言を平然とすることがとても許せない。」/「事例 広汎性発達障害の児童。障害によりニーズが違うのに、障害と一括りするが故の狭い選択肢。高校も高等養護か普通高校の2つしか選択肢がない。それ以上の、あるいはそれ以外の選択肢を求めるとお金がかかる。→改善提案 高等養護の数と質を増やしてほしい。多動の子と重度肢体不自由の子が一緒にいるのは無理である。色々な障害にあったカリキュラム、教育の場がほしい。誰もが望む進路を選べるようにする。」/「事例 広汎性発達障害、アスペルガー、注意欠陥障害の女子。知的な遅れがなくても様々な困難がある。「見た目が普通なのに何で変なの?」と言われ、説明しても分かってもらえない。先生も「特別扱いしない」というが本人にはそれがストレスになる。理解や支援をしてもらうために、わざわざ“うちの子には障害がある”と言わなければならない。また、知的な遅れがなく手帳がとれないので、公的支援が受けられない。軽度でも収入が多くなくても安心して過ごせる教育環境がほしい。」

 そして、大学教育については、「事例 某大学の指定校推薦入学が決まっていたのに、「聴覚障害者を受け入れる態勢にない」と学校から通知が来て不合格になった。→改善提案 手話通訳等の情報保障があれば可能。私学助成金制度等を学校は知らない。」/「事例 大学で、筆談では時間を要するので手話通訳をつけてほしいと言ったら拒否された。」/「事例 大学でノートテイクをお願いしても実際に書けるのは話の数分の1である。手話通訳もない中で、講義終了間際に、講義の中からあるテーマについて書けと言われても、情報量が少なく、何を書けばよいのか。」/「事例 先生に質問されたとき、聴覚障害とわかると、順番を飛ばされた。理由を聞くと、「しゃべれないから気の毒」とのこと。私にも意見を言う権利がある。→改善提案 手話通訳者の配置等の配慮が必要。」などと、紹介されている。

 ちょうど、7月末が期限で、日本学生支援機構により全高等教育機関に対して、障害のある学生からの支援の申し出に対して、適切な対応を行なうために参考となる取組事例の収集を目的とする調査が行われたところである。調査目的には「障害者差別解消法における合理的配慮規定が平成28年4月に施行されることを踏まえ、今後の支援に具体的にどのように取り組めばよいのか、各大学等が参考にできる事例を収集し、提供することが急務と考え本調査を実施」とある。いずれその結果が公表されることになる。特別支援教育が充実してくる中で、障害学生支援にどう取り組むか、具体的な事例を参考にして、配慮のガイドラインを各大学等で定めねばならないことを再度強調しておく。                 (文責:教育支援システム研究部門 青野 透)