【No.506】
障害学生への合理的配慮を考える-その④ Student Support Servicesの観点から-

○●○障害学生への合理的配慮を考える-その④ Student Support Servicesの観点から-○●○

 バス通勤をしている。車内では本を読んでいるが、今朝はなにか違うことに気が付いた。交差点やバス停での停車の際にあまり揺れないので、本が読みやすいのである。やがてバスはキャンパス内に入り、コンビニの角を曲がる。路面が痛んでいるせいで、いつもはかなり揺れる。だが揺れない。見事である。教養部の角間移転が1993年のことだったから20年以上利用してきたバスである。市内での会議のために2往復することもある。長く利用して初めての経験であった。降りるときに思わず、女性の運転手さんに、乗り心地が良かったことを伝えた。

ただ運転すればいい、事故を起こさなければいい、定時に走ればいいというわけではないだろう。揺れるのを道路のせいにするのも簡単である。だが少しの配慮で揺れを最小限にすることはできる。それがプロだと思う。運転手の思いやり、サービス精神によって、わずか20分ほどであっても乗客は心地よさを味わうことになるのである。

さて、この日私がバス車内で読んでいたのは、『日本高等教育学会第17回大会発表要旨集録』であった。6月28日(土)・29日(日)に大阪大学で開催され、私も、参加報告する機会を得た。この学会は、高等教育関する「実践的、政策的課題の解決に寄与する」ことを目的としており、今回も「高等教育研究と政策」と題する課題研究を巡って、2時間半のシンポジウムも行われた。

私は、「高等教育政策課題としての障害学生への合理的配慮-「障害者差別解消法」の平成28年4月施行に向けて」と題して報告した。そこでは、<障害学生支援に関し、「高等教育段階においても、意欲・能力ある障害者の教育機会の確保に向けた支援を推進する」(教育振興基本計画、平成25年6月閣議決定)、「障害のある学生の能力・適性、学習の成果等を適切に評価するため、大学等の入試や単位認定等の試験における適切な配慮の実施を促進する」(障害者基本計画、平成25年9月閣議決定)と、国の政策として明示されている。「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」施行を前に、高等教育機関は、両基本計画に従い、個々の障害学生に対して適切な支援・配慮を実施しなければならない>ことを指摘した。

詳細については、ポータルのアカンサスFDの「本学のFD活動」に掲載した、パワーポイントデータと要旨集録原稿をご覧いただきたいが、ここでは報告でも引用した、石田久之「障害学生の修学支援 教育の機会均等」『大学と学生』27号(2006年)の次の一文を紹介したい。

「(アメリカやオーストラリアの大学の)学生相談カウンター近くには何種類ものパンフレットが並んでいますが、その中に必ずと言ってよいほど「機会均等」や「法的権利」という内容の冊子 が置いてあります。アメリカなどでは、障害学生へのサービスは、学生サポートサービス(Student Support Services)の中で行われています。日本の大学にも学生(支援)センターなどがありますが、サポートサービスの範囲はかなり広く、一般学生のための学習相談(学習方法や単位の取り方などの相談)、留学生への対応(下宿の世話などを含む場合もあります)、そして障害学生への修学支援も行われています。障害も身体障害だけではなく、学習障害や精神障害にも、係わっています。これらが意味していることは、大学という一つのコミュニティの中で、文化的(例えば宗教)あるいは社会的な(例えば障害の有無・程度)広がり(違い)を認め、誰もが等しく教育を受けられるようにしていこうということです。

「教育の機会均等」。・・・理想、考え方だよ、と言われかねません。権利などと書かれたパンフレットを見ると、仰々しいとか殊更にという感じがしますが、彼らには自然にこの言葉が出てくるのでしょう。しかしこの原則に立ってこそ、「障害学生の修学支援はどこまですればいいの」という質問に 答えることができます。ゴールは、「教育の機会均等」の達成です。「言うのは簡単だけど、そんなところまでは無理」という声が聞こえそうですね。では、「逆に」こう考えたらどうでしょう。聴覚障害学生に分かりやすいように講義の資料を予め作ると、これは健常学生にも役に立ちます。歩道と車 道が分離したキャンパスにすると、これは健常学生にも教職員にも安全なキャンパスです。障害学生への配慮はその多くが健常学生にとっても嬉しいも のです。障害学生へのちょっとした配慮で、みんなが学習しやすく生活しやすい大学になる、と。同じになるように遅れている部分を引き上げるのも必 要ですが、ちょっとだけ工夫をして、最初から同じように対処し、少しずつ全体を押し上げていく。高邁な理想ただ単に障害学生のためにというだけ で、経費を確保し、支援体制を動かすことはできないのではないでしょうか。大きな目的の中で理解されてはじめて、修学支援の事業にゴーサインがでます。」

ここに指摘されているように、障害学生支援は本来、特別なことではない。高等教育の機会均等という理念の下で、他の学生への支援と同様に位置づけられるものである。

そして、日本は実は、このことを国際的に義務付けられている。すなわち、日本が1979年に批准した、国際人権規約「経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約」は、その13条に「 1 この規約の締約国は、教育についてのすべての者の権利を認める。・・・2 この規約の締約国は、1の権利の完全な実現を達成するため、次のことを認める。・・・(c)高等教育は、すべての適当な方法により、特に、無償教育の漸進的な導入により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会が与えられるものとすること。」(「無償教育の漸進的な導入により」については、2012年9月11日 日本政府留保撤回)と規定している。

既に四半世紀以上前から、「高等教育において、すべての適当な方法により、能力に応じ、すべての者に対して均等に機会を与える」ことを政府はしなければならなかったのである。障害学生がいればそのための、留学生がいればそのための、学習に不安がある学生がいればそのための、経済面で支援が必要な学生がいればそのため・・・・というふうに、必要な学生に必要な支援を行うことが、Student Support Servicesである。

高等教育学会の同じ分科会では、東京大学の蝶慎一会員が「戦後初期における学生支援の展開-『厚生補導研究会』(1951~1952年)の実施経緯とその実態を中心に」と題した報告を行った。第一次資料を丹念に読み込んだ研究成果発表であった。今から60年以上前に、「米国諮問委員会」の主催によって、「日本の大学で、ガイダンスとカウンセリングを中心にした、確かな学生サービスStudent Servicesを発展させるため、教職員への一般的オリエンテーション、選ばれた若い教職員に、専門的に必要な初訓練を施し、それによって学生と教職員の間の、学問上の及び人間的関係での溝をうめる手助けをする」ため、200名以上が参加する研究会が開催されていたことも明らかにされた。「その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する」と規定した日本国憲法のもと、高等教育の機会均等のための学生支援は、永く国としての政策課題であり続けてきたことを再確認しておきたい。(文責:教育支援システム研究部門 青野 透)