【No.503】
根拠に基づいた教育改善

●○●根拠に基づいた教育改善●○●

 妥当な根拠を特定し、それに基づいて主張や行動を行う能力は、学術研究に沿って行う大学教育が学生に身に付けさせるべき重要な学習成果であろう。その大学教育の改善を研究者である教員が根拠に基づいて行うことが、教育の質保証の主要なプロセスである。質保証のための根拠は、大規模な電子データが容易に収集できるようになり、そのデータ分析から示されつつある。このような近年の動向は、教育に限らず様々な分野で見られ、患者が受けた診療など医療情報データを網羅的に疫学的手法で分析して、治療の妥当性の検証あるいは治療法の改善を行おうとする、いわゆる「根拠に基づいた医療」(Evidence-Based Medicine)はその1例である。

 カリキュラムや個々の授業の改善が必要か否かの判断は、これまで各教員の経験や勘によるところが大きかったと思われるが、本学ではディプロマ・ポリシーあるいはそれに基づく学習成果が明文化され、その学習成果の達成度という一つの判断基準を設定し、改善のための根拠の導出、つまり学習成果の達成度をどう測定するかについての検討段階に入っている。昨年度、教育企画会議カリキュラム検討委員会が学類生、大学院生を対象に実施した学習成果等達成度自己評価アンケートについては、中期計画・26年度計画に沿って当センターが分析を行うこととしている。アンケートでは、各学生が履修した科目のシラバスに記載された学習目標(成績評価基準)の達成度自己評価(4段階)、所属学類あるいは研究科が定める学習成果あるいはディプロマ・ポリシーの達成度自己評価(4段階)のデータを収集している。アンケートで収集されたデータは、教務システム内で、回答した学生の履修科目の成績評定と対応付けることができるため、1)履修科目の学習目標の達成度自己評価と成績評定との相関の有無、2)学類生については、カリキュラム・マップで紐付されている履修科目の学習目標達成度自己評価と学類が設定する学習成果達成度自己評価との相関の有無、以上の分析を行う予定である。前者の相関の有無は、授業科目の学習目標(成績評価基準)の達成度を測るに妥当な成績評価方法(試験問題の内容、レポートの課題、口頭発表の採用の有無など)が採用されているかどうかを検証する一つの指標になることが期待される。後者の相関の有無は、カリキュラム・マップにおける授業科目と学習成果との整合性の指標となりうる。アンケートでは、授業時間外学習時間についても回答させており、GPAや学習成果の達成度との関係について吟味することも可能である。教育改善のためにどのような根拠を特定すべきかについて、当センターでは上記の分析を行うとともに引き続き情報収集等を行う。

 京都大学高等教育研究開発推進センター教授の溝上慎一氏は、学生の学習の実態把握を目的とした経年調査を行っており、学習時間やキャリア形成意識の経年変化、卒業年次の特定時点での就職内定率などのデータを収集し、卒業時に達成されるべき学習成果の総体の指標とも考えられる就職内定率と初年次以降の能動的学習主体の授業科目の履修の程度やキャリア形成意識の有無との相関など斬新な切り口で分析を行っている。6月7日に開催された河合塾PROG(Progress Report On Generic Skills)セミナーでの基調講演で溝上氏は、「学内の教員との議論のなかで、京都大学の学生は大丈夫、自分が教員になったのだから学生も大丈夫、などの意見があるが、狭い個人的経験から脱却し、ゆがんだ実態把握を修正して教育改善を行うためには客観的なデータの収集とその分析から教育改善のための根拠を出すことが不可欠」と述べられた。筆者も、設定したテーマについての学生との対話を通して論点を明確にし、問題を見つけ出すという能動的学習を意図した共通教育科目の授業を試行錯誤で行っているが、このような科目を履修しようとする学生は意識が高く、期待通りのパフォーマンスを示し、本学の学生はやはり優秀だと内心思ったりするが、ごく限られた学生だけを見て勝手に安心することに何の根拠もないのである。

 溝上氏は基調講演のなかで、電通育英会と京都大学高等教育研究開発推進センターとが共同で経年的に行っている全国の大学生を対象とした「大学キャリア意識調査」、京都大学FD研究検討委員会と高等教育研究開発推進センターとが共同で2011年11月に行った学習生活実態調査、また大阪府立大学の高等教育推進センターIR顧問として関わられた教学IR分析等の結果を踏まえて、大学教育改善の必要性を強く訴えかける客観的な根拠データを提示された[1-3]。詳細は引用した資料を見ていただきたいが、要点だけ述べると、1)GPAと学習時間や学習行動等さまざまな変数との相関はなく、「授業を欠席しない」「居眠りしない」との相関がある。(つまり、GPAは授業科目の学習目標(成績評価基準)の達成度の指標にはなっていないことを示しており、このことは成績評価方法の改善の必要性を示唆していると考えられる。)2)1年生の時点でのキャリア形成の見通しや意識の有無の傾向は、4年生まで大きく変化することはなく、キャリア意識が低い学生は、能動的学習を主体とする授業科目の受講を避ける傾向にあり、能力や知識の自己評定が低く、就職内定率も低く、先延ばしとしての大学院進学を選択する傾向にある。就職内定率という切実なデータを突き付けられ、1年次の学習動機付けがいかに重要であるかを痛感した。また、各学生の就職内定の状況をきめ細かく把握することは、学生の心理的ケアを行う上でも極めて重要と思われる。

                        (文責 大学教育研究開発部門 西山宣昭)

[1]http://www.dentsu-ikueikai.or.jp/research/

[2]http://www.fd.kyoto-u.ac.jp/resource/2013jigaku.pdf

[3]溝上慎一「経験や勘からデータ重視へと教学改善を跳躍させるIR」

進研アド『Between』2013年10-11月号

 

○●○第15回評価システム研究会のご案内○●○

日時:7月10日(木)16時30分~18時  会場:総合教育1号館2階大会議室

テーマ:「学習成果達成度をいかに測定するか」

発表者:西山宣昭(大学教育開発・支援センター)

概要:今年度行う学習成果達成度等自己評価アンケートの設問およびデータ分析の方針について、京都大学高等教育研究開発推進センターによる学生の学習実態の経年変化の調査等の先進的事例の検討や卒業研究の評価、外部試験の有効性の検討なども行い、議論したい。