【No.501】
アクティブラーニング(能動学習)からディープラーニング(深い学習)へ(その2): FLIT(東京大学反転学習社会連携講座)第2回公開研究会参加報告

○●○ アクティブラーニング(能動学習)からディープラーニング(深い学習)へ(その2):FLIT(東京大学反転学習社会連携講座)第2回公開研究会参加報告 ○●○

初等・中等教育から高等教育までの学校教育・企業研修において,「講義」という教育スタイルは、学生の「認知的な変化」を促すために広く使われている。情報をどのように伝え、いかに教育効果を高めるかの新しい方法が生まれたのは、2000年代の米国の高校化学の教室からだった。

 5月24日東京大学本郷キャンパスにて行われたFLIT(東京大学反転学習社会連携講座)第2回公開研究会「反転授業のデザインと評価手法〜先駆者に聴く、反転授業の概念と実践事例〜」講演およびワークショップに参加した。概要を報告しながら、初めて授業を反転したアーロン・サムズ(Aaron Sams)氏の実践を伝えたい。なお、研究会に合わせ『反転授業 基本を宿題で学んでから、授業で応用力を身につける(ジョナサン・バーグマン、アーロン・サムズ、原題「Flip Your Classroom: Reach Every Student in Every Class Every Day(2012)」、山内祐平ら監修、オデッセイコミュニケーションズ、2014年)』が出版された。

まず講演では、サムズ氏から経緯と概念の説明があった。16歳〜18歳の化学教育の現場で、すぐれた指導法を模索していた彼と同僚のバーグマンは、教師が最も活動的な状態である教師中心の授業にジレンマを感じていた。もっと生徒に時間を使わせ、感情に訴えかけたい。発見を通じて学習すること、教師ではなく教室自体での生徒の活動が中心になる設計を目指したい。最初のシンプルなアイディアは、2人の教師が互いに休んだときの代講を、事前に取っておいたビデオで代えることであった。ただ情報を伝えるのであれば、ビデオを見せるのと教師中心授業と効果は変わらないこと、それどころか、ビデオは時間を生徒がコントロールできること、すなわち変数を「学習内容」から「学習時間」にすることが、学習を個別化されたものに転換する。板書を書き写すという簡単な作業に授業時間を費やし、より困難な宿題を家庭学習にあててしまう。

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図1:ブルームの教育目標分類(改訂版)

図1のように、まず記憶と理解を徹底し、応用・分析・評価・創造のステップへと段階を進める過程において、従来の教室は記憶・理解に重きを置いてきた。こうした認知的領域の発達段階を整理したのは、ブルームとアンダーソンによる教育目標の分類学(Bloom’s Taxonomy)である。サムズ氏は、この作図自体が誤解されることを指摘する。続いて映し出された実際の授業では、生徒は個別学習やプロジェクトに取組み、実験器具を手に取ってビデオで学んできた記憶・理解を確認し、応用課題に取り組んでいた。その中では、教師は教卓に立っていない。一斉には教えず、一人ひとりを見て必要に応じて関わっている、一見して自由な風景が広がっていた。

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図2:教育目標分類の反転(アーロン・サムズによる)

図2には、記憶・理解を授業外に出したことにより、授業で促進される応用・分析・評価・創造の過程を強調した。ビデオがすべてではない、としつつも対面授業の時間の有効化が可能であること、そしてビデオは生徒になじみがある強力なメディアである。例えばyoutubeにアップロードされている大量の教材には、テキスト/音声/アニメーションを含む様々な要素がある。

ある生徒は、化学反応を学んだ後、エネルギーを蓄積するための効率的なシステムを発想し、太陽光発電による電気分解によって発生した水素を燃料電池として利用するプロジェクトに取り組んだ。授業では実験に取り組む時間が少なかった以前にはない活動を、教師がガイドすることが可能となる。教師にとって伝達方式は様々にあり、状況・学年・科目によってツールの使われ方は異なる。直接伝達、グループ学習、個別化学習に対して、ガイドとしての教師(プロセスの専門家であり、人間である)が関わり、生徒は活発に活動することが可能となる。記憶・理解をビデオに置き換える第一段階の反転授業の先に、反転型完全習得学習につながる第二段階としての多様な展開が考えられる。カリキュラムと探究活動のバランスを取りながら、一人ひとりの教師がいろいろな教材を組み合わせて、まずはビデオを作ってみることが始点になろう。

後半のワークショップでは、ビデオ導入に向けた演習とピア・インストラクション体験が用意され、小中高校・大学・企業など多様な背景をもつ参加者とのQ&Aにも時間が割かれた。TechSmith社のCamtasia(win/mac、30日間の試用が可能)、Screencast-O-Matic(mac)によるスクリーンキャスト(PC上の操作の録画)、iPadアプリのDoceriなどの利用と、リソースリスト(http://bit.ly/dvsflip)を参考にしながら、まずは、最初の反転授業の実践を開始したい。

(文責 教育支援システム研究部門 杉森公一)

 

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・シリーズ大学1~7(グローバリゼーション,社会変動と大学ほか)、岩波書店、2013〜2014年