【No.498】
障害学生への合理的配慮を考える-その②発達障害者支援法の意義-

○●○障害学生への合理的配慮を考える-その②発達障害者支援法の意義-○●○

 本連載その①(第494号2014年4月7日発行)で私は、「独立行政法人日本学生支援機構『平成25 年度大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書』にもとづき、昨年5月1日時点で、「聾…両耳の聴力損失60 デシベル以上、又は補聴器等の使用によっても通常の話声を解することが不可能、又は著しく困難な程度」の学生587名のうち41名と、「難聴…両耳の聴力損失60 デシベル未満、又は補聴器を使用すれば通常の話声を解することが可能な程度」の学生961名のうち484名、合計525名は、大学等から支援を全く受けていないという事実を指摘しました。「障害学生」は、「身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳及び療育手帳を有している学生又は健康診断等において障害があることが明らかになった学生」と定義され、「支援障害学生」とは、「学校に支援の申し出があり、それに対して学校が何らかの支援を行なっている(今年度中の支援予定を含む)障害学生(支援例:ノートテイク、手話通訳、点訳、定期試験の配慮等の授業保障、学内学生生活、キャリア・就職等に関する支援等)」と定義されています。そして、上記の525名は、在学する大学等に対して支援の申し出をしておらず、そのために支援を受けていないと推測できるけれども、これは放置できない事態だと指摘しました。

 他の学生支援であれば、例えば、経済支援として、奨学金の申請について大学等がその制度の存在を学生募集や入学後の広報で学生に伝える努力をしていれば、ある学生が(奨学金の申請をすることなく)経済的に困窮していたとしても、大学側に責任があるとはいえないでしょう。大学等は学生一人一人の経済状況を知ることはできず、また、本来的に、自らの意志で支援を希望してきた学生に対してのみ行えばいいのが、学生支援だといえます。

しかし、障害学生に対する支援や「配慮」については、違った事情にあると考えられるのです。

その明確な発端となったのは、発達障害者支援法第八条第2項に「大学及び高等専門学校は、発達障害者の障害の状態に応じ、適切な教育上の配慮をするものとする」との規定が置かれたことです。同第二条「この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢において発現するものとして政令で定めるものをいう。2 この法律において「発達障害者」とは、発達障害を有するために日常生活又は社会生活に制限を受ける者をい」うとの定義にそって、この法律が施行された平成17年4月1日以降、発達障害学生に対し、障害の状態に応じた適切な教育的配慮を、全高等教育機関は義務付けられているのです。

日本学生支援機構は、「平成20年度大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査」から、発達障害学生に関し、診断書のある発達障害学生に加え、「診断書はないものの発達障害があることが推察され教育上の配慮を行なっている者」についても調査しています。その結果、平成20年5月時点で、発達障害(診断書有)学生299人、発達障害(診断書無・配慮有)学生515人、合計814人であり、「支援発達障害(診断書有)又は発達障害(診断書無・配慮有)学生が1人以上在籍」しているのは224校でした。

そして5年後、平成25年度の調査結果は、「発達障害(診断書有)学生は2,393人で前年度より515人の増、このうち支援障害学生は1,597人で前年度より306人増」「発達障害(診断書無・配慮有)学生は3,198人で452人増、発達障害(診断書有)の支援障害学生と合わせると4,795人で758人の増」となりました。「発達障害(診断書有)学生又は発達障害(診断書無・配慮有)学生が1人以上在籍する学校」は591校で前年度より44校増で、全1,190校の49.7%です。「支援発達障害(診断書有)学生又は発達障害(診断書無・配慮有)学生が1人以上在籍する学校」は526校で20校増、全体の44.2%です。

つまり、診断書があって支援を求めてきた発達障害学生への支援だけではなく、「発達障害があることを」大学等の側で「推察し」、障害の状態を確認し、「教育上の配慮」が必要と判断した学生に対して、積極的に支援を行うことが、大学等で広がっていることが確認できるのです。

支援の内容は多様です。526校で行なわれている授業支援では、注意事項等文書伝達82校(実施率15.6%)、実技・実習配慮81校(15.4%)、休憩室の確保72校(13.7%)、教室内座席配慮65校(12.4%)、試験時間延長・別室受験47校、チューター又はティーチング・アシストの活用45校、講義内容録音許可45校、解答方法配慮29校、使用教室配慮22校、パソコンの持込使用許可17校となっており、授業外支援では、専門家(臨床心理士等)による心理療法としてのカウンセリング281校(53.4%)、保護者との連携278校(52.9%)、学習指導(履修方法、学習方法等)276校(52.5%)、社会的スキル指導(対人関係、自己管理等)225校(42.8%)、進路・就職指導191校(36.3%)となっています。従来の学生支援では想定できないものが多くあります。

障害種別を問わず、積極的に支援のニーズを把握し、それにもとづき、支援体制を新たに築く動きも顕著です。例えば、岐阜大学の大学機関別認証評価『自己評価書平成25年6月』では、保健管理センターの「教育における合理的配慮の支援」について、次のように述べています。

障害のある学生に対する支援については、平成23年度に聴覚障害学生に対応するための「ノートテ

イク講座」を希望学生を対象に開催したほか、全学教職員対象に「発達障害の学生を理解するために」と題したFD講演会を実施した。これまでは、保健管理センターが各学部との連携により身体障害及び発達障害の学習支援に対応してきたが、障害のある学生の修学支援体制を明確にするため、平成24年度に大学教育委員会の下に「障害学生修学支援WG」を設置した。本WGでは、全教員に障害学生についてのアンケートを実施して全学の障害学生の現状を把握するとともに、平成25年度新入生に対し、「修学上の支援についての調査」を実施し、支援のニーズを把握したこれらを踏まえた全学の体制を強化し、障害学生の修学支援体制の構築を図ることとしている。(傍線及び強調:引用者)

発達障害者支援法は、罰則もなく理念法の性格が強いものです。しかし、同第八条1項「国及び地方公共団体は、発達障害児(十八歳以上の発達障害者であって高等学校、中等教育学校及び特別支援学校に在学する者を含む。)がその障害の状態に応じ、十分な教育を受けられるようにするため、適切な教育的支援、支援体制の整備その他必要な措置を講じるものとする」により、中等教育で支援を受けた学生も進学してきています。大学等が待ちの姿勢のままではいられないのが、新たな時代の学生支援です。障害学生がいることを前提とした授業設計・教室運営、さらには大学運営が求められていると考えられます(詳細は、5月31日(土)、名古屋大学で開催される大学教育学会第36回大会公開シンポジウム「大学教育改革につながる実践的知識の共有」で報告します)。連載次回は、聴覚障害学生支援の意義を再確認します。(文責:教育支援システム研究部門 青野 透)