【No.497】
アクティブラーニング(能動学習)からディープラーニング(深い学習)へ

○●○ アクティブラーニング(能動学習)からディープラーニング(深い学習)へ ○●○

大学進学率の上昇に伴うユニバーサル・アクセス化(普遍化)[1]、工業社会から知識基盤社会(ポスト近代化)への社会構造の転換、グローバル化の進展による学位の国際通用性と国際競争力の要求など、現在進行している日本の大学教育を取り巻く状況の変化から、否応の無い転換点・岐路に立っていることが自明である。本質には、教育パラダイムに拠ってきた教員の講義・研究が立ち行かなくなり、学生の学習活動に焦点を当てた学習パラダイムへ向かう教育学習観の転換[2](筆者は、学習革命と呼ぶ)がある。微視的に授業方法(教育)についての研修を指していた狭義のFD(ファカルティ・ディベロップメント)を大学改革の標語にしていた時代は過ぎ、より巨視的・俯瞰的な大学教育の教授学習方略の在り方を教学のデータから導きだすIR(インスティテューショナル・リサーチ)からの機関戦略の策定と実行、広義のFDである教育開発(エデュケーショナル・ディベロップメント)が求められている。これは、大学組織の教育哲学を明らかにする省察的な活動、大学組織自身の学習とも捉えられるが、大学の多様化が始まった1950年代後半のアメリカの大学研究の萌芽と進展が羅針盤の役目となる(喜多村1973)[3]

矢継ぎ早に発表される中央教育審議会(中教審)の各種答申、大学改革に対するプランと提言から得られる情報は、指している方向性の是非も含めて、議論のスタート地点としても有用である。本稿では、始点として、再度、平成24年8月28日中教審「質的転換」答申[4]へ回帰し、アクティブラーニングの語の出現した背景[5]から手法としての側面を整理したい。ただし、学習方略や手法は、転換の本質ではないことには気をつけたい。

中教審答申では、その用語集にてアクティブラーニングの定義を次のように解説している。

【アクティブ・ラーニング】

 教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称。学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等によっても取り入れられる。

【課題解決型学習(Problem Based Learning)】

 身近に感じる具体的な自称から課題を学生が発見し、その課題を解決するために自ら学習させ、課題を解決させる教育方法である。医学・歯学・看護学・環境科学・法律実践・工学などのように実践の場での課題解決が職業的スキルとして重要視される教育分野でしばしば採用される。具体的な学習課題を立てて少人数のグループでプロジェクトを進めるプロジェクト型学習(Project Based Learning)もPBLと呼ばれる。

これと同期した平成24年度以降の政策:大学改革実行プランでは、アクティブラーニングの導入による講義の質的転換をはかる大学への統制を強めている。私立大学総合改革事業では大学の取組みを点数化した上で、取組みと設備を一体的に支援する全額補助の取組みを行っており、各地の大学でのカリキュラム開発やラーニング・コモンズなどの自律的な学習を促す学習環境整備が、加速している。私学関係者にとってはアクティブラーニングへの対応は、日常的になっていよう。今後の大学改革の方向性の各所には、すでに埋め込まれており速やかな実行が求められる。

 河合塾による2件の調査報告(それぞれセンター図書室にて所蔵)、「アクティブラーニングでなぜ学生が成長するのか」(2011年)「「深い学び」につながるアクティブラーニング」(2013年)は、それぞれ全国大学の学科を対象とした調査をもとに、類型化を試みている。前者が経済・経営・商学系149学部、工学部機械系・電気・電子系112学部、後者が資格系を除く952学科対象である。続けての京都大学の溝上慎一による授業形態の分類は、議論の始点として有用である。

○学生参加型授業:コメント・質問を書かせる/フィードバック、理解度確認(クリッカー、授業最後/最初に小テスト/ミニレポート)

○各種の共同学習を取り入れた授業:協調学習/協同学習

○各種の学習形態を取り入れた授業:課題探究学習/問題解決学習

○PBLを取り入れた授業:Problem- /Project- Based Learning

○ほか:ピアインストラクション、TBL(チーム基盤型学習)

学生参加を促すために、ミニッツペーパー(出席カード)からはじめ、ペアワーク・討論による他者との協同、宿題・課題を授業外学習に課し、フィールドワーク(実験・実習)とその振り返り・プレゼンテーションなどによって形成的な学習評価を進めていくことは、学生の探究心と学究的な態度を深い地点まで涵養することになろう。これらはすべて、単位が取れればいいとするような浅い学習(Surface Approach)の対語にあたる、深い学習(Deep Approach)へ向かう方略である。

 いま、金沢大学に学ぶ学生を主語とした教育・研究・学習の在り方が問われている。

(文責 教育支援システム研究部門 杉森公一)



[1]マーティン・トロウ「高度情報社会の大学―マスからユニバーサルへ」(喜多村和之訳、玉川大学出版部、2000年)で紹介されたトロウ=喜多村モデルは、今日の大学進学率50%時代の慧眼である。

[2]Robert B. Barr & J. Tagg, "From Teaching to Learning – A New Paradigm for Undergraduate Education", Change, 27(6), 1995 学生の学習の質の向上に寄与することは、教員視点ではなく学生を主語にした大学の諸活動の編み直しになろう。川嶋太津夫による解説を参照:アルカディア学報325号 https://www.shidaikyo.or.jp/riihe/research/arcadia/0325.html

[3]喜多村和之、アメリカにおける「大学研究」の展開:序説 大学論集、1、20-31、1973年

[4]新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)、中央教育審議会、平成24年8月28日http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325047.htm

[5]週刊センターニュース400号 http://herd.w3.kanazawa-u.ac.jp/news/2012/201205_400.html

 410号 http://herd.w3.kanazawa-u.ac.jp/news/2012/201207_410.htmlおよび425号 http://herd.w3.kanazawa-u.ac.jp/news/2012/201210_425.html「中教審大学分科会(審議まとめ)とアクティブ・ラーニング」を解説として、参照