【No.494】
障害学生への合理的配慮を考える-その① 聴覚障害学生支援の現状から-

○●○障害学生への合理的配慮を考える-その① 聴覚障害学生支援の現状から-○●○

 本学では、10年ぶりとなる、授業情報保障を希望する聴覚障害学生の入学により、4月10日からの授業開始に備えた支援の態勢づくりを急ピッチで行っています。

 私も入学前面談から当該学生に対応し、久しぶりに、必死で私の話を聞き取ろうとしている、聴覚障害の新入生のまなざしに出会いました。もともと、1年生の授業は、きちんと学生の心をつかめば、やりやすいものです。新しい知識との出会いは誰でも楽しく、それが自分にとって必要だと分かれば真剣になります。授業内容を学生の関心があるものに厳選し、方法を工夫し、理解を確かめながら行えば、学生たちはちゃんと聴いてくれます。発言もしてくれます。相談室でも同様で、不安な面持ちでやってくる新入生は、やはり耳を傾けてくれます。そして、とくに聴覚障害学生は、こちらの口を読もう、少しでも音を聞こうと、必死で見つめています。このまなざしに応えるべく、学生にとって満足のいく授業情報保障を大学は行わねばなりませんし、個々の教員は授業内容を充実させ、個々の職員は窓口で適切な配慮の意識をもって臨まねばなりません。

さて、私たちが今考えねばならないのは、聴覚に障害があっても、大学に支援を求めてこない学生への支援です。そのまま放置しておくべきではないと、私は考えます。

独立行政法人日本学生支援機構が先月発表した『平成25 年度(2013 年度)大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書』(悉皆調査、回収率100%)http://www.jasso.go.jp/tokubetsu_shien/documents/2013houkoku.pdfから、聴覚障害学支援の現状を確認しましょう。この調査では、「障害学生」は、「身体障害者手帳、精神障害者保健福祉手帳及び療育手帳を有している学生又は健康診断等において障害があることが明らかになった学生」と定義され、「支援障害学生」とは、「学校に支援の申し出があり、それに対して学校が何らかの支援を行なっている(今年度中の支援予定を含む)障害学生(支援例:ノートテイク、手話通訳、点訳、定期試験の配慮等の授業保障、学内学生生活、キャリア・就職等に関する支援等)」と定義されています。

調査の結果、昨年5月1日時点で、「聾…両耳の聴力損失60 デシベル以上、又は補聴器等の使用によっても通常の話声を解することが不可能、又は著しく困難な程度」の学生が、全国の大学に577名、短期大学に8名、高等専門学校に2名、計587名在籍し、「難聴…両耳の聴力損失60 デシベル未満、又は補聴器を使用すれば通常の話声を解することが可能な程度」の学生が、大学に887名、短期大学に43名、高等専門学校に31名、計961名在籍していることが分かりました。

 それでは、これらの学生のうち、どれくらいの割合でどのような支援をうけているのでしょうか。

 「聾」の学生は、大学で536名(92.9%)、短期大学で8名(100%)、高等専門学校で2名(100%)、計546名が支援を受けています。「難聴」の学生は、大学で442名(49.8%)、短期大学で20名(46.5%)、高等専門学校で15名(48.4%)、計477名(49.6%)が支援を受けています。

 次に授業における支援内容です。聾・難聴の区別はデータとしてはありません。また、聴覚に障害はなく言語にのみ障害のある学生(大学に58名、うち支援を受けているのは27名、短期大学ゼロ、高等専門学校に3名、うち支援受けているのは3名)も含めて「聴覚・言語障害」として掲載されています。これらの学生の支援を実施している大学等の数(当該障害学生が複数在籍する場合もあります)は276校です。

支援内容の内訳を多い順に紹介します。最も多いのが「ノートテイク」154校(実施率55.8%)、次いで「教室内座席配慮」131校(47.5%)、「パソコンテイク」106校(38.4%)の順で、「注意事項等文書伝達」103校、「FM補聴器マイク使用」83校、「手話通訳」72校、「実技・実習配慮」66校、「ビデオ教材字幕付け」59校、「休憩室の確保」27校、「パソコンの持込使用許可」26校、「講義内容録音許可」23校、「使用教室配慮」21校、「解答方法配慮」20校、「チューター又はティーチング・アシスタントの活用」20校、「試験時間延長・別室受験」19校、「専用机・イス・スペース確保」14校、「教材のテキストデータ化」7校、「ガイドヘルプ」6校、「教材の拡大」3校、「点訳・墨訳」1校、「リーディング・サービス」1校、「読み上げソフト使用」1校、および「その他」43校となっています。

 さて、直ちに解決しなければならない問題として指摘したいのは、「聾」学生587名のうち41名と、「難聴」学生961名のうち484名、合計、525名は、大学から何らの支援も受けていないという事実です。

支援学生とは「学校に支援の申し出があり、それに対して学校が何らかの支援を行なっている(今年度中の支援予定を含む)」ということです。聴覚障害学生から、例えば「教室内座席配慮」や「注意事項等文書伝達」といった、すぐにでもできる支援の申し出があって、それに対応せず支援をしないという例はほとんど考えられません。つまり、525名のほとんどは、在籍する大学や短期大学や高等専門学校に対して、支援の申し出をしていないと推測できます。

 大学は、どの学生が聴覚障害学生であるかを把握しています。相談に来るのを待つのではなく、まずは、その学生たちに面談をすべきです。聞こえの程度を確認した上で、高校までどのような配慮をしてきてもらってきたか、すでに大学での授業が始まっているのであれば今どのような困難があるのか、具体的に支援してほしいことはないか、例えば、教室の前の方に座りたいとかといった些細な希望でもいいので教えてほしいと、伝えるべきです。やり取りの中で、その希望については、過去に同じような例があるので対応可能だとか、準備に時間がかかるけれど実施できそうだとか、いろいろな対応がでてくることになります。もちろん、全く支援は要りませんという学生もいるかも知れませんが、その学生がノートテイクやパソコンテイクを受けた経験がなければ支援による効果を経験していないことになりますので、例えば、一ヶ月だけでもノートテイクを付けるからという提案をしてみるべきでしょうし、日本聴覚障害学生高等教育支援ネットワーク(PEPNet-Japan)http://www.pepnet-j.com/のウェブページには、情報保障が授業理解にどんなに不可欠なのか知ることができる・・・などと情報提供すべきです。

他の学生支援であれば、例えば、奨学金の申請について大学がその制度の存在を学生募集や入学後の広報で学生に伝える努力をしていれば、学生の側から大学に申し出がなければ、そしてその学生がどんなに経済的に困窮していたとしても、大学側に責任があるとはいえないでしょう。けれども、学内にわずかな数の聴覚障害学生について、その存在が分かっているにもかかわらず、面談さえ行うとしない高等教育機関には、とても大きな責任があると言えます。その理由については、連載次号で、法的な観点を含め、説明します。

(文責:教育支援システム研究部門 青野 透)