【No.493】
教学マネジメントの処方箋:5つのステップとルーブリック

○●○ 教学マネジメントの処方箋:5つのステップとルーブリック ○●○

筆者は、各地の大学・学協会でのFD・SD講演を通して、支援者として教育開発をファシリテートする[1]試み、ワークショップを取り入れた研修に取り組んできた。具体的には、教育情報の分析(IR)、教育接続のためのルーブリック活用、アクティブラーニングと学習環境、地域学習・臨床実習の教育学習評価、若手大学教員の授業研究などであるが、これらの要素が織りなす学士課程を通じた教育プログラムの実質化、そして質保証に向かう実を結ぶためにどのような教学マネジメントのステップを踏むことができるのだろうか。

教育再生実行会議[2]第三次答申「これからの大学教育等の在り方について」(平成25(2013)年5月28日)には、大学の教育機能について「3.学生を鍛え上げ社会に送り出す教育機能を強化する」として、教学マネジメントへの言及が次のように繰り返されている。

○大学は、課題発見・探求能力、実行力といった「社会人基礎力」や「基礎的・汎用的能力」などの社会人として必要な能力を有する人材を育成するため、学生の能動的な活動を取り入れた授業や学習法(アクティブラーニング)、双方向の授業展開など教育方法の質的転換を図る。また、授業の事前準備や事後展開を含めた学生の学修時間の確保・増加、学修成果の可視化、教育課程の体系化、組織的教育の確立など全学的教学マネジメントの改善を図るとともに、厳格な成績評価を行う。国は、こうした取組を行う大学を重点的に支援し、積極的な情報公開を促す。企業、国は、学生の多彩な学修や経験も評価する。

社会の力による学生の多彩な学修・経験(準正課カリキュラム)は、教学マネジメントにも有用であり、「学習する大学組織」を生み出す原動力にもなろう。

 教学マネジメントを小中高から社会に接続する大学の在り方として捉える方法の一つとして、図1のような、FD・SD活動の到達目標・サイクルについての5+2のステップを考える。

0.建学の精神、社会から大学に求められる要請を受けた、我々の教育哲学を起点とし、

1.何を伝えたかという「教授」から、何を学んだか「学修」に注目する学習観の転換

2.3つのポリシーの具体化と、学習の到達目標=学習成果(アウトカム)の策定

3.カリキュラム全体での目標提示によって、科目間を構造化・可視化するマップやツリー化

4.学習成果を測定し、振り返りを促すためのルーブリック、ポートフォリオ、各種の能動的学修手法(アクティブラーニング)の導入と検証

5.学士課程教育を通じて、卒業生の能力の質保証が達成されているかを検証する。

6.継続的な自己点検のサイクルを展開し、ループを閉じる。(1.へ)

センターニュースNo.493図1.jpg

本学のケースでは、ステップ3から4への移行に向かっているという見方ができる。ステップ4では、カリキュラム内部で、一人ひとりの教員と学生の取組みが必要なものもあれば、科目群・科目間で共通に取り組めるものもあろう。ルーブリックの導入にあたって、図のような入れ子構造を描くことが可能である。

 中央教育審議会大学分科会(大学教育部会第25回、平成25年9月20日提出資料1)[3]において鈴木典比古委員が『ルーブリックは教員と学生双方が使用できる学習進捗表であるが、実際の授業においてはこのルーブリックと、授業の進行工程表であるシラバスはセットになってしようされる必要がある。(中略)ルーブリックは学生の主体的な学習への取り組みと自己による達成度評価を可能にする道具として有効である。』と言及しているように、機関内の達成度評価、教学マネジメントのツールとして有用である。

センターニュースNo.493図2.jpg

 図に例示した、レベル1からレベル3までの達成度を科目内、科目間、長期に評価することによって、総体として学士課程の質保証となる。しかし、前教育段階のレベル3と、接続する教育段階のレベル1という教育段階の狭間にまたがる、長期ルーブリックは不在であり、レベル0が谷間となって存在している。たとえば、高等学校での卒業までに身に付く学習成果は、大学入学時に必要とされる能力と厳密に等しいものではないことが考えられる。さらに、学校卒業後の生涯にわたっての自律的教育・学習にも、長期ルーブリックが果たす役割が一層重要となる。地域・企業で学ぶインターンシップやサービス・ラーニング、医療・介護・教育現場等での実習教育は、職業と密接に関係しているものの、卒後にわたる長期的研修との接続も視野に入る。教育段階にまたがって存在する谷間を可視化すること、評価者(教師・指導者、学生自身も含む)同士の共通理解が進むことが、大学教育の前後を結ぶ教育接続[4]の第一歩になると考えている。

(文責 教育支援システム研究部門 杉森公一)



[1]ファシリテーター(促進者と訳される)としての教師像は、学生との双方向の学びを促すだけでなく、教師・学習者を含む大学とステークホルダー(地域・自治体・NPOなど)との協同的な学びをも結ぶ役割を担う。ピーター・センゲ「学習する学校 子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する(原題:Schools That Learn、2012年)」(リヒテルズ直子訳、英治出版、2014年)、佐藤学「学校を改革する 学びの共同体の構想と実践」(岩波ブックレット、2012年)に、理論と実践の蓄積を見ることができる。

[4]文部科学教育通信(ジアース教育新社、センター所蔵)3月10日号からの新連載「ルーブリックが結ぶ教育接続」にて、学内外の事例についての続報と事例紹介を予定している。