【No.492】
大学教育と社会人基礎力

○●○ 大学教育と社会人基礎力 ○●○

大学教育における社会人基礎力育成を推進する観点から,効果的な育成を実践する大学の取組みを表彰し、情報発信を行う趣旨のもと3月9日に経済産業省主催「社会人基礎力を育成する授業30選」表彰式および特別シンポが開催され、参加した。本学共通教育特設プログラム「キャリアディベロップメント」も当該授業30選に選定されている。経済産業省が提唱する「社会人基礎力」は、「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な基礎的な力」である(3つの能力、12の能力要素で構成される。下図参照)

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 (出典:経済産業省「社会人基礎力」http://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/about.htm

 今回選定された大学は、同じく同省主催の「社会人基礎力育成グランプリ」(大学の授業を通じどれだけ上記の力が伸びたか学生が発表し成長度合いを競う)を受賞するなど実績校が多く含まれており、各大学の取組みの情報に加え、花田光世氏(慶応義塾大学教授)の基調講演で全体を見渡しての特徴や課題について提言され考えさせられる部分が多かった。

 花田氏によれば現在の学生気質として、問題解決志向が強く、一方で課題を与えられることに慣れ受身志向であり、簡単に効率的に解決のプロセスを辿ろうとする傾向が強いという。そして一生懸命すれば誰かが助けてくれ、なんとかなると考えることが多く、そうした「与えられた」状況の中で解決のプロセスを知っていることで学生に変な自信を生んでいると指摘する。現実には結果が出ないことが多く、そうしたときにどう力を発揮するのかが重要であるが、理不尽な現実の中で行動する(働く)ことはどういうことが学ばずに卒業する学生が多いのではとみている。選定30プログラムも含め、日本の大学で広く議論され相当に普及しているPBL教育も、ややもすればそうした脆うさを含み込む可能性があるという。もう少し説明を加えていくと、(とくに30プログラムでは)社会人基礎力を基礎(これに限らず、例えば学士力ベースでも同様と考えられるが)として各々コンピテンシーを明確にした上で体系的な学習のカリキュラムを組み立てている。そして、学生個人の学習が局面局面で評価できるように(ポートフオリオやルーブリックなどを利用し)、結果に至る途中の努力を可視化することで一般的プロセスの評価として形作られている。

 学士課程教育の中に浸透しているPBL教育は、そのプロジェクトやそこで必要とされる知識・情報が教員によりあらかじめ仕切られていて、アレンジされ整地され過ぎているということである。大学教育の中に作られた(ある種)「真空状態の地ならしされた状況で育まれるテクニカルなコンピテンシー」を育成するプログラムは、学生自身がそうした基礎力を有していると勘違いさせ、企業の現場でしっぺ返しを受け挫折する危険性もあると指摘する。学士力議論や大学教育改革のキーワード概念

の一つともいえるコミュニケーションや問題発見・解決、人間関係構築能力について、どうしてそれらが重要なのか、本当に認識できているのか。社会や組織で生きていくことは、与えられた課題をなんなくこなすコミュニケーションや問題発見ではないということに気付く必要がある。

 現実に結果が伴わなくても継続して取り組んでいくために、コンピテンシーの発揮に向け「モチベーション開発」を知り、その開発を通したプロセスへの努力に学生を向かわせていく。そのプロセスとは、自分の課題やマイナス点を理解し、できないことを知った上で、自分の従来のアプローチを見直し、出来ることをもう一度構築していく(一歩踏み出していく)ことである。そしてそのための支援を、教職員を含め関係者が行っていくべきであると述べている。このモチベーション開発を重視する視点からは、(学生)個人の視点からみる成長目標の設定、プロセス設計、成長実感とキャリア機会の拡大を認識させる仕組みを、教育プログラム(あるいはプロジェクト全体)を通して常に学習していくための支援が重要になってくる。

社会人基礎力、学士力などの開発・育成(とそれに向けた体制も含め)は、あくまでその(一つの)きっかけとして捉え、各大学がどのように学生が自ら学び続ける仕組みを作っていけるか、今後が勝負となってくるであろう。

   (文責 評価システム研究部門 渡辺達雄)

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・日本教育工学会監修、西之園晴夫ほか編著『教育工学における教育実践研究』(教育工学選書5)ミネルヴァ書房、2012年

・京都大学高等教育研究開発推進センター編、『平成24年度特別経費「大学教員教育研修のための相互研修型FD拠点形成」相互研修型FD拠点活動報告2012』2013年

・同志社大学 教育支援機構編、『PROJECT WORKS 2012 2012年度プロジェクト科目 学生成果報告書』2013年