【No.490】
学士課程のコモン・コアとアクティブ・ラーニング(その2)

●○●学士課程のコモン・コアとアクティブ・ラーニング(その2)●○●

センターニュースNo.485では、3学類の能動的学習(アクティブ・ラーニング)主体の授業実践の報告が行われる3月18日開催の教育実践報告会「能動的学習と学習成果」(裏面をご覧ください。)に関連して、リベラルアーツ教育の理念との関係からアクティブ・ラーニングの学習成果は、学士課程の専門分野によらない「批判的思考力」であるとした。教育実践報告会では、各専門分野でのアクティブ・ラーニングを促す取組が他大学の事例とともに紹介される。

筆者は、共通教育科目において少人数ゼミ形式で学習成果「批判的思考力」を意図した授業を試行錯誤で行っている。後期に開講している「論理的思考と科学技術社会問題」の今年度の授業開始数回の概要についてセンターニュースNo.474に記した。その後の授業の展開について以下に紹介したい。3月18日の教育実践報告会での【全体討論】で自身の実践に基づいて議論に参加し授業設計のヒントを得たいと考えている。

「論理的思考と科学技術社会問題」のシラバスの「学習目標」欄には、成績評価基準として、「批判的思考」過程を複数のプロセスに分解し、1)論証(根拠と結論)の構造を分析し、その妥当性を評価することができる、2)論証の分析に必要となる科学的事実を同定し、その事実に関する知識を自己学習によって得ることができる、3)論証を分析する過程で、疑問を持ち、新たな問題を発見することができる。4)独自の仮説を組み立てることができる、と記載している。

授業の形態は、研究室でのゼミと変わらない。学生が述べた考えの根拠を質問しその妥当性について議論することが主な内容である。学生同士での議論に委ねることが望ましいと思うが、授業ではひたすら筆者が質問することにしている。さらに、考える上で必要な情報が何かについて質問する、あるいは情報収集の方針を一緒に考える。設定するテーマについて筆者自身も知識を持っていないので、授業では筆者自身の思考プロセスをさらけ出すことになるが、その過程で、根拠を明確にし、その妥当性を吟味することを具体的に示すことができると考えている。

今年度のテーマは「現代社会における生活習慣と疾病」とした。食生活についての議論から、塩分摂取に常習性、増幅性があるのではないか、さらに塩分にも麻薬と同じ脳への作用があるかもしれないとの仮説を立てた。「塩分」と「麻薬」をキーワードとして用いて、インターネットで検索した結果、塩分摂取によって麻薬摂取と同様の遺伝子発現が誘導されることを示す論文(W.B.Liedtke et al. PNAS 108(2011)12509.)の存在に行き当たり、アブストラクトだけを学生とともに和訳し、また遺伝子とは何か、遺伝子発現の制御の概要についてミニ講義を行い、アブストラクトの意味するところの理解を試み、自分たちが考えた仮説が的外れではないことを確認した。

次に、塩分摂取過多によって高血圧になるとよく言われているが、その他の病気との関連はないか議論し、減塩の食事療法によって悪性リンパ種が消失したとのテレビ番組の情報を根拠として、がんの発生あるいは消失と塩分摂取とが関係があるのではないかと学生から提案された。根拠が疑わしいと思ったが、ワインバーグのがんに関する教科書を手元において、がんとは何か、免疫とは何か、がんと免疫との関係などについて学生とともに議論しながら理解を深めた上で、塩分摂取過多によるがんの発生と減塩療法によるがんの消失を説明できる仮説形成を試みた。学生が立てた仮説は以下の通りである。血中塩分濃度の上昇により、高血圧に伴う血管の障害が起こり、そこに免疫細胞が集積する。その結果体内で免疫が手薄になる部分が生じるため、がんが発生する。減塩により免疫細胞の分布は正常になり、がんを免疫細胞が攻撃して消失する。この仮説のポイントは免疫が手薄になることがあるかどうかである。このポイントの妥当性を示す根拠としてどのような情報を探せばよいのかについて議論した。その結果、もし病原体の感染によって手薄になる部位が生じるのであれば、第2の病原体の感染が容易になるかもしれないとの考えに至り、検索のためのキーワードを学生とともに考えた。その結果、「重複感染」というキーワードが見つかり、これに関連してウイルス感染による抗細菌応答の阻害の研究を紹介するJSTのプレスリリースに行き当たった。しかし、学生との議論により、この事実は上の仮説の妥当性を支持するものではないのではないかとの結論に至った。そこで、上記の仮説を捨て、他の仮説がないかアイデアを学生に求めた。その結果、塩分摂取が免疫に直接影響するのではないかとの仮説が学生から出され、関連する事実がないかどうか情報検索した結果、NaClが自己免疫疾患を誘導するとの最新の論文(M.Kleinewietfeld et al. Nature(2013))に行きついた。

基礎知識について十分に学習させた上で仮説形成等を行うべきではないかという批判を受けることは容易に想像できるが、うまくテーマを選択した上で、仮説形成、根拠の吟味などを教員の思考プロセスをさらけ出しながら体感させることに意味があるように思うがいかがであろうか。3月18日の報告会で、この点についても議論できればと思う。

(文責 大学教育研究開発部門 西山宣昭)

 

●○●大学コンソーシアム石川主催 第3回FD・SD研修会のご案内●○●

大学コンソーシアム石川主催 第3回FD・SD研修会

「大学を変える、学生が変える ~学生とともに進めるFD~」

日時:3月15日(土)午後2時~4時

会場:金沢星稜大学 本館4階 A41教室

講師:立命館大学 共通教育推進機構 木野 茂 氏

法政大学 小金井事務部学務課 理工学部担当 平野 優貴 氏

詳細: http://www.ucon-i.jp/newsite/pdf/20140315FDSD.pdf

 

●○●平成25年度教育実践報告会・第11回大学教育セミナー

「能動的学習と学習成果」のご案内●○●

  主催:教育企画会議教育改革部会

  共催:教育企画会議FD委員会、大学教育開発・支援センター

  日時:3月18日(火)13時30分~17時

  会場:自然科学図書館棟大会議室

 【講演】「PBLと学習支援ー同志社大学プロジェクト科目におけるTA・SA協議会の試み」

同志社大学PBL推進支援センター長 山田和人教授

【学内事例報告】

「教育現場で即戦力となれる社会科教師を養成するための初等社会科教育法の実践

-100名受講の大講義-」学校教育学類 村井淳志教授

「経済学類の初学者ゼミ―具体的事例の紹介―」経済学類 佐藤秀樹准教授

「創造デザイン実習による課題解決能力育成」機械工学類 米山 猛教授