【No.483】
発達障がい学生支援に関する先進事例の訪問調査報告

○●○発達障がい学生支援に関する先進事例の訪問調査報告○●○

 昨年12月2日(月),3日(火),発達障がい学生の支援を先がけて進めている,東京大学,早稲田大学,明星大学の3校を訪問し,各大学のシステムや取り組みについてお話を伺った。

 2日は,東京大学と早稲田大学を訪問した。東京大学では,学生相談ネットワーク本部コミュニケーション・サポートルームの室長で精神科医の渡辺慶一郎先生と,臨床心理士の川瀬英理先生が出迎えてくださった。

 学生相談ネットワーク本部には,「学生相談所」,「精神保健支援室」,「コミュニケーション・サポートルーム」,「なんでも相談コーナー」の4部署がある。「学生相談所」は学業や人間関係,性格などの心理的問題について,カウンセラーとともに相談する場所である。「精神保健支援室」は,学内のメンタルヘルス向上を目指した授業やFD・SDに加え,保健センター精神科での診療を行っている。当初学生相談ネットワーク本部には,「学生相談所」,「精神保健支援室」,「なんでも相談コーナー」の3部署があったが,3年前より「コミュニケーション・サポートルーム」が開設された。「コミュニケーション・サポートルーム」は,発達障がいやその傾向のある学生の支援に特化している。

 コミュニケーション・サポートルームは現在専任の臨床心理士1名,非常勤の臨床心理士1名と兼務の精神科医数名で運営されている。学生相談所や精神保健支援室と並行して利用する学生もいるそうだ。学生相談所では当該学生本人のケアが中心となるのに対し,コミュニケーション・サポートルームは本人の話を聞きながらも,障がい特性に起因する困難についての具体的なアドバイスや,関係する教職員および外部機関への支援依頼など,調整が主な役割となる。ここでは,まず初回に困りごとの聞き取りや自己記入式の心理検査を行う。またこの際,この場所が発達障がいに関する相談に応じる場所であることや,コミュニケーションに困難を抱える人の中に,発達障がい傾向のある人がいることも説明する。単発利用や他機関へのリファーで終了することもあるが,継続して利用する学生が多い。継続の場合,週1回もしくは2週に1回のペースで1回の相談は30分となる。必要に応じて認知機能検査も受けることができる。相談方法は原則来室による面談で行っているそうだ。自己理解の支援,修学支援,就労支援,診断や障害者福祉手帳などに関するサポート,生活の工夫に関するアドバイス,当事者会の開催といった支援を受けることができる。ここでは具体的なサポートをすることにより,学生相談所との役割分担がなされていると感じた。

 早稲田大学では保健センター事務長の駒形裕治さんと保健センター学生相談室心理専門相談員の樫木啓二先生,長岡惠理先生が迎えてくださった。早稲田大学学生相談室では,発達障がいとその傾向のある学生を対象に「WADS(ワッズ)」というグループ活動を行っている。これは,発達障がいのある学生の強い思いで2009年に立ち上がった自助グループである。授業期間中の月2回程度,昼の時間帯に1時間程度,定例会として,日常の困りごとについて,メンバーで話し合いを行っている。どのようなテーマを話し合うかについては,学期初めにメンバーの学生で出し合い,その学期の計画を立てているそうだ。定例会の後には,WING(ウィング:教職を目指す大学院生によるピアサポートグループ)との交流会を40分程行う。両グループは自発的な協同活動も行う。また,年に2回,卒業したWADSのOBとの懇親会も行っており,社会に出た先輩の話を聞くことは学生にとって大変参考になるとともに,OBの学生もこの懇親会を楽しみにしている様子とのことである。

 WADSに参加するには,個別の学生相談も並行することが必要である。個別相談では,WADSでの参加の様子や感じたことも話し合っている。したがって,WADSのメンバーには,それぞれに担当のカウンセラーがいる。

 現在WADSのメンバーは10名程度,WINGのメンバーは6,7名であり,WADS,WINGどちらも,学生が中心となりながら教職員がサポートしている。WADSのメンバーの多くは自身が発達障がいもしくはその傾向があることを受け入れている。WADSのメンバーは,自分の特性を踏まえつつ,メンバーで意見を出し合い,共に考え,積極的に社会生活の工夫を開拓しようとしている。また,このグループで,同じような傾向をもちながらも自分とは違う他者と出会い,学生の自己理解が深まっていく様子も伺うことができた。この背景には,学生の自主性,主体性を重んじながらも,そっと見守りながら支えるスタッフの先生方がいてこそと推察した。

 3日(火)は明星大学(東京都日野市)を訪問した。明星大学では学生サポートセンターのスチューデントコンサルタントである岸野旭紘さんと,同センターの臨床心理士である吉野智子先生が迎えてくださった。明星大学では発達障がいのある学生を中心としたライフスキルトレーニングの一環として「STARTプログラム」を実施している。2007年より準備を始め,2008年は教職員のボランティアで試み,2009年から大学の正式な取り組みとなったそうだ。内容は,困った時の相談先,学生課や相談室の利用,役所利用などの「社会システム理解」,対人距離,社会人になる場合の想定,異性との付き合いなどの「対人関係調整」,スケジュール管理,服装,健康管理などの「生活管理」,長所・短所,勉強の仕方,ジョブマッチングなの「自己理解」,余暇の過ごし方,資格などの「余暇活用」の大きく5領域からなる。これらの領域について講義とシミュレーションなどの実践を通して学習する。このプログラムは,月3回,土曜日に実施され,1回の時間は90分とのことである。このプログラムを受けるには,有料となり,1か月20,000円の負担が必要となるが,学生の受講に積極的な保護者も多いとのことであった。このプログラムへの参加学生は36~40名前後だそうだ。また,定例的なプログラムに加え,大学祭へ参加したり,保護者会を実施したりといった取り組みもある。

これだけの充実したプログラムを行うには,準備もさぞ大変であろうと思い,STARTプログラムの運営体制を尋ねてみた。このプログラムに関わるスタッフは教職員2名,契約スタッフ(臨床心理士)4名,アルバイト・パート6名,ボランティア(教員・学生)若干名とのことである。能力やニーズに応じて4クラス開講されているのだが,1クラスに2~3名のスタッフが入り実施している。1クラスを開講するために,大変丁寧な準備がなされており,スタッフの方々のご苦労が窺えた。

このSTARTプログラムの様子はDVD「明星大学版社会移行支援プログラム1・2」(小貫悟・村山光子監修/中島映像教材出版)で見ることができる。本学にも所蔵しているので,関心のある教職員の方々には是非お声かけいただきたい。

今回3つの大学を訪問させていただき,各大学では,その大学や在籍する学生の特性に合わせつつ,発達障がい傾向をもつ学生へのサポートを進めていると感じた。金沢大学においても,本学のシステムや学生の特性を活かしつつ,社会生活に不安を抱える学生に対して,前向きに社会へ送り出すことができるよう,取り組みを展開していきたい。

お忙しい中,訪問を快く受け入れてくださった,各大学の方々に心より感謝申し上げたい。

(文責 大学間連携共同教育推進事業 障がい学生等支援担当 濱田里羽)

 

●○●角間ランチョンセミナーは2013年度をもって終了します●○●

 2003年6月10日に始まった当センター主催のランチョンセミナーは、10年半続き、通算830回を数えましたが、今年度限りとなります(本年4月からは開催しません)。皆様のご参加、ご協力に心より感謝いたします。123日(木)1215分より、総合教育講義棟A1教室にて、その歩みなどを振り返ることといたします。弁当持参で結構ですので、お気軽に、ご参加ください。