【No.482】
社会への接続を目指す:アクティブ・シチズンシップとオンライン授業

明けましておめでとうございます。本年も『週刊センターニュース』をお読みいただき、ご活用いただければ幸いです。よろしくお願いいたします。

○●○ 社会への接続を目指す:アクティブ・シチズンシップとオンライン授業 ○●○

2013年は、ルーブリック、アクティブ・ラーニング、教学IR(インスティテューショナル・リサーチ)、MOOCs(大規模公開オンライン講座)など、教授・学習の方法と学習成果をどう捉えるかに焦点が当てられた一年であったように思う。学習者が教育機関においてどのような能力を身につけたかを問い問われ、そして生涯学び続ける行動変容へ結びつけるための、教育・学習イノベーションが萌芽の時を迎えている。筆者は、「学習革命」の到来を感じている。

本稿では、2013年末に開催された2件の学会から2014年の道標を見出したい。まず、11月30日-12月1日大学教育学会2013年度課題研究集会(統一テーマ「大学教育の質的転換の方向性を問う」、於:同志社大学)の基調講演・シンポジウムから共通教育に求められる市民教育の可能性を捉える。次に、12月18-20日大学ICT推進協議会2013年度年次大会(AXIES2013)(於:幕張メッセ国際会議場)から招待講演・企画セッションから国内外のMOOCsの動向を紹介する。

大学教育学会課題研究集会は、課題研究(現在は4テーマが進行中:教職協働によるカリキュラムマネジメント、共通教育の質保証、学生支援の評価、FDの実践的課題解決)の各シンポジウムを軸に毎年開催されている(過去には課題研究から、FDや初年次教育などの提言が掘り起こされてきた)。Caryn Musil氏(AAC&U 全米カレッジ・大学協会)による基調講演「Active Learning for Active Citizenship」では、活発な社会構成員を育成するための、米国での一般(共通)教育とリベラル・エデュケーションの事例報告からグローバルな課題を探るものであった。Citizenship=市民性を伸ばすアクティブ・ラーニングの事例として、緑化プロジェクトへの参画、現地の文化のデジタル化プロジェクト、国外での小グループによる社会参画など、すべて地域〜国際課題を解決するサービス・ラーニングであり、学生の関与/公共の複雑な問題/情報提供/実践で学ぶ、という要素が含まれている。米国でのコンセンサスで生まれた4つの本質的な学習成果(Essential Learning Outcomes; ELO)がここでも強調されるのだが、文化・科学への知識理解、実践スキル、個人的社会的責任(ELO1〜3)を地域への関わりの中で、統合的に学び応用すること(ELO4)によって市民としての意識の高まりを生み出すことができる。また、学生を中心したペダゴジーが取り入れられる確率が高まることで、ラーニング・コミュニティ(=学習集団)の形成、学生の満足感や深い学びへの寄与が向上する。そして、雇用者(官・民)が求める主体性・判断力・公益性といった市民としての資質と、ELOは似通いつつある。個人として学ぶ、またはアクティブ・ラーニングをするためのプログラム、というものではなく、「Active Citizenship」教育は、これからの持続可能な社会への参画の準備としての共通教育の方向性を示していた。

大学ICT推進協議会では、ICT技術が大学教育および情報教育にどのような影響を及ぼすのかを様々な企画セッションと一般発表からうかがうことができる。Brian Voss(メリーランド大学副学長・CIO、EDUCAUSEディレクター)による基調講演「史上最大級の災害:高等教育における崩壊」[1]では、Perfect Stormと表現しての崩壊に向かう要因を「恐竜絶滅の隕石」に例えて議論を始めた。人口動態の要因(18歳人口の減少)、市場の要因(競争)、政治の要因などが挙げられる中、オンラインとテクノロジーの2つの要因によって、学生の多様な学びの要求に合致する形でMOOCsプロバイダーが登場して1年半のうちに何百万人もの学生を集めることにつながっている。オンラインの方がよいかどうかの価値判断については、結果として市場が決めることで議論は不要(音楽産業の例、CDかmp3か?)としながらも、傍観するだけでなく、参加し使ってみることがまず必要な姿勢である。MOOCsは、コンテンツに対して学生がどのような情報を得て学習を行ったかのビッグデータ分析=Learning Analyticsによって、革新的な授業設計が可能となる。ただし、ほとんどの教授は使いこなすことができず、教育学のモデルの変化への支援(最初の手ほどき)を行うコースデザイナーあるいはインストラクターの供給が求められる。これを、Voss氏は、ハードウェア・ソフトウェアに例えて、ヒューマンウェアと命名していた。MOOCsなど技術革新によって起る変化を認め、何とか変化し、孤立する事なく解決策を共有し表現し考えていこう、というメッセージからは、高等教育を取り巻く危機は、ヒューマンウェアによる人—技術、教師—学生、大学—社会の結びつきによって乗り越えられるのだという希望を感じた。なお、日本版MOOCに関するセッションでの議論、詳細については日経BPの記事[2]、朝日新聞記者の金成隆一氏による新刊[3]に詳しい。

教育方法の革新に影響を受けながらも、私たちは、持続的で継続可能な教育方法を見出さなくてはならない[4]。すべての学生の持つ力に最大限の期待と愛情を持って「魔法の言葉」をかけること、彼らの学びの価値を問いかけ続けることが、その解のひとつであることを、私たちは授業を通して体験的に既に知っているように思う。

(文責 教育支援システム研究部門 杉森公一)



[1]日経BPオンライン「様子見している時間はない……大学が直面する“2つの嵐」2013年12月20日 http://pc.nikkeibp.co.jp/article/news/20131220/1116103/

[2]日経BPオンライン「山積する日本版MOOCの課題を激論、大学ICTの年次大会が開催」2013年12月18日 http://pc.nikkeibp.co.jp/article/news/20131218/1115843/ ※2ページ目以降は会員のみ閲覧可

[3]金成隆一「ルポ MOOC革命 無料オンライン授業の衝撃」岩波書店2013年12月25日

[4]若手授業研究会を組織しています。年度内は毎月第一水曜、金沢大学サテライト・プラザにて開催しています。詳細:http://ks-edu.w3.kanazawa-u.ac.jp/wakate/