【No.481】
キャリア教育の動向-職業能力育成のための様々な取り組み

○●○ キャリア教育の動向職業能力育成のための様々な取り組み ○●○

 国内にとどまらず、主要な先進国において、教養教育(リベラルアーツ教育)の意義や位置づけの捉え直しがなされ、また主体的・自律的な学習に結びつくアクティブ・ラーニングの取り込み・普及が進んでいる。上記の教育内容・方法面の変化は、その後に進むであろうより学術的・専門的な学部の専攻教育あるいは大学院教育のための基的な学習能力の基盤を形成するという目的は当然あるが、最終教育段階として社会(職業世界)と直接接している大学にあって、職業(基礎)能力の育成やキャリア意識促進の基盤としての(啓発的)役割が、以前に比べてかなり大きな比重を占めていることは否定できない。本稿では、最近の主に私立大学・文系大学におけるキャリア教育の取り組み状況やその中で生じている課題について紹介していきたい。

 学生の職業能力を育成するにあたって、産業界と連携した教育としての産学連携教育・科目は、大なり小なり各大学で導入されてきている。理工系や医療系では早くから展開されているが、文系大学・学部や文系が主要となる場合が多く卒業後の進路が多岐にわたる私立大学でも、学生の論理的思考力やいわゆる社会人基礎力を育成する上で有効な手法として注目されている。産学連携の全国の実態把握を行った研究(1)によれば、文系の場合、地域貢献・社会貢献を重視する一環でもあるが、就職先拡大や学生・ゼミ教育の活性化という狙いもあり、文系の連携先はサービス業・卸小売業が相対的に多いとみられる。また理系のそれと比べ、連携目的や意図が抽象的な場合が多いことが指摘されており、つまり、一面では企業と学生との交流にとどまり部分的なレベルで終えてしまうこともあり、両者間の関わりを通じ、企業(社会)における実務についての適切な理解や企業が求める職業能力を学生が果たして身につけていくことが出来ているのか不透明ともいえる。

 平成22年度の就業力GPおよび24年度産業界GPに選定されている首都圏の私立X大学では、「文章作成力」「情報収集・分析・発信力」「状況判断・行動力」の3領域12項目で構成される就業力の育成を正課内外で進めている。うち産学連携科目は、グループによる調べ学習を行い、企業からのフィードバックが直接得られるようになっている。某年度の授業テーマとして、メデイアと連携し実務を通して職業能力を育成することを設定し、授業概要として、①企画立案・副編集長との企画会議・チーム編成②調査・分析・記事執筆③新聞社系メデイアへの記事掲載④読者からのコメント分析、となっている。教員・企業側講師のそれぞれの役割として、前者は学生管理・進捗管理・調査分析の支援・企業と学生の架橋・学習内容や取り組んでいることの意義や学問的つながりの明示、であり、後者は、仕事手順やスキル育成(支援)・企画の承認や評価・原稿確認・リード作成・フィードバック、となっている。学生の授業アンケート結果および受講者への半構造化面接による分析結果によれば、受講前の職業に対する興味関心の有無とあまり関係なく仕事そのものに対する理解が深まったとの回答割合が大きいこと、仕事の責任や厳しさなど職業理解の広がりはもたらされていること、授業の中に実務を導入した結果、基礎的スキルは身につけることができたと認識していること、高度なスキルを要する部分は授業では補えず実践回数や訓練の限界を認識していることが明らかになった。当該産学連携科目は、通常のゼミにおける共同研究や卒業論文・研究と共通するところは非常に多く、それにもまして企業などからの直接的なフィードバックもあり、緊張感とともに、学生の学習意欲がより向上させる効果も見出せるようである。

 センターニュースNo.481図.jpgさて、京都府立大学では、「地域社会と関わる人間を育てるキャリア教育-体系的な実用教育で築くキャリアデザイン」として、初年次から学生のキャリアデザインをサポートする「キャリア育成プログラム」(左図参照)を実施している。具体的に、地域社会に根ざした生き方ができる人間を育てるために、公立大学という特色を活かし、就業や地域に関わる事例を用いたケースメソッドによるキャリア演習や、地域と連携したインターンシップなど実用的キャリア育成教育を行っており、「キャリアポートフォリオ」システムによって学生と教職員を結び、学生によるキャリアデザイン、計画学修と自己評価、就職情報の提供と指導を通じて就業に結びつけるためのサポートを行っている。またプログラムでは、キャリア育成到達度をポイント化し、認定基準を満たした学生に対して「就業力認定証」を、卒業時に「プログラム修了証」を交付している。ケースメソッドによるキャリア演習では、進路選択に関する問題を扱うイントロダクション・ケース、企業から実際に起きているケースを提示し対応策を検討・発表するアドバンスド・ケース(PBL)、シリーズキャリア講演会(3年次の選択科目であるキャリアデザイン演習の講演会企画)の3つから構成されている。演習の事例としては、文学部で博物館の広報戦略と利用者増加を図る企画や公共政策学部で人に優しいオフィス提案といったテーマを設定し協力企業と連携しながら進められる。

 キャリアサポートセンター等による分析では、キャリア入門講座受講前と受講後では、24で構成された基礎力(ポートフォリオ)についていずれの項目も上昇し、またケースメソッド演習の受講前と修了後で、例えば目標達成のための努力やキャリア形成への興味など授業態度の変化や、自己理解や働く意義、学びと社会との接点への気付き、傾聴や自分の意見表明などキャリア意識について、軒並み上昇していることが示されている。先の私立大学とは少し異なり、PBL型のケース演習導入により、授業態度の変容やキャリア意識の向上、対人基礎力などの向上がみられ、大学にいながら仕事観の形成に役立っているようである。

 以上2つの大学のキャリア教育を簡単に紹介したが、共通する課題として、プロジェクト型産学連携は、作業が進展しない学生を追い詰める危険があること、結果志向へ過度に傾倒しがちであること、短期間で高い成果を求め専門家が指導にあたることで、学生が自分の非力さを強く意識づけられ当該職種への自己効力感を低下させる可能性もあり、主に文系のPBL型科目や産学連携科目について、その意図や目的を明確にすることはもちろん連携先の業種など内容や運営の方法にも細心の注意を払うことが必要であることが指摘できる。

 本学のキャリア教育についても、共通教育および学類などにおける取り組みについてそれらの連携など運営のあり方はもちろん、上記の課題に注意を払いながら、効果的なシステム構築が求められよう。

                     (文責 評価システム研究部門 渡辺達雄)

注(1)千葉商科大学『社会科学系分野における産学連携の可能性と課題:多様な産学連携モデルに向けた予備的考察』2011年