【No.480】
国際ワークショップ「高等教育の国際化: 現実とインプリケーション」参加報告

○●○国際ワークショップ「高等教育の国際化: 現実とインプリケーション」参加報告○●○

 12月5日(木)、6日(金)に広島大学高等教育研究開発センター主催の国際ワークショップに参加した。ワークショップでは、「高等教育の国際化:現実とインプリケーション」というタイトルで、近年話題に上ることが多い高等教育における国際化について欧州、米国、韓国、中国、日本を対象に学生の移動、国策としての国際化、英語による授業、国際共同教育プログラムなどの論点を中心に報告および議論が行われた。

先ず、欧州からは“40 Years of Internationalisation in Europe: Accomplishments and Challenges”と題して、Eric Beerkens氏(Senior Advisor for International Affairs, Leiden University, The Netherlands)が、この40年における欧州での高等教育国際化について政策(ソクラテス計画、ボローニャ・プロセス、エラスムス計画など)、予算(教育面、研究面での増加)、単位互換(ECTS)、欧州域内連携ネットワーク整備、今後の課題について報告を行った。これまでの数々の活動により欧州内での学生の流動性などから見る国際化は進んでいると判断出来るが、各国における財政支出状況や学生受け入れ・送り出し状況に偏りがある点、英語による教育が増えているがそれが本当にいいことなのかという点が指摘されていた。具体的には、オーストリアの医学部にドイツ人学生が大量に流入している点(ドイツ国内の医学部は学生定員制限がかかるため)、英語での授業を増やしているオランダに近隣国から多くの学生が入ってきている点などがあげられていた。また、欧州域内での高等教育国際化が進むのに合わせて欧州司法裁判所での教育、研究関連事案が増えているという点も興味深かった。

 次に米国からは“Internationalization of American Higher Education: Policy Perspectives and Practical Concerns”という題で、Laura E. Rumbley氏(Associate Director, Center for International Higher Education (CIHE), Boston College, USA)が米国における高等教育国際化について報告を行った。これまで全米レベルでの国際化ポリシーについてはあまり議論されてこなかった経緯の説明から入り、21世紀に入り9.11以降の政策変更、近年に入ってから連邦教育省、米国教育協議会(American Council on Education, ACE)などが積極的な米国人学生送り出しに向けた取り組みを始めた点などが報告された。ACEは、国際化指標として、機関としての大学の関与、運営機構と財政面、カリキュラムと学習成果、学部としての方針と実践、学生の移動、連携協力をあげている。

 韓国からは、Kiyong Byun氏(Associate Professor, College of Education, Korea University / Full−time Policy Advisor, The Ministry of Education, Republic of Korea)が“English-Medium Teaching in Korean Higher Education: Policy Debates and Reality”と題して、韓国の大学における英語を使った授業についての報告を行った。大学により差はあるが、教員は担当科目のうち一定数を英語で行う義務があり、学生は卒業要件単位のうち一定数を英語で行われている授業を履修しなければならないという現状を説明した後、これらは確かに大学の国際化、学生のグローバル対応を促す、学生がわかるように教員が授業を工夫するなどの効果はあるが、英語で説明する内容の学術レベルが十分なのか、学生は十分理解出来ているのかなどの問題点もあることが指摘された。

 日本からは、近藤祐一氏(日本・立命館アジア太平洋大学入学部長、教授)が“Japanese Universities and their Internationalization: Is Paradigm Shift Feasible?”と題して、国際化を進めるための文部科学省の政策および英語による学位プログラム、アカデミックカレンダー変更、9月入学、4学期制、ギャップイヤープログラムなど、learningにおいてアジアで一番を目指す立命館アジア太平洋大学における国際化の取り組みを紹介し、日本の大学においてこのような国際化へ向けたパラダイムシフトを行うためには、トップが明確な方針と世界で何が起こっているのかを十分理解している点、方針と戦略が大学全体の活動と緊密に連携している点、教職員が十分研修を受け、変化に対応出来る点がポイントであると指摘された。

 最後に中国の事例報告として、黄福涛氏(広島大学高等教育研究開発センター教授)が“The Internationalization of China's Higher Education: Focused on its Transnational Higher Education”とのタイトルで、中国における経済発展に伴い、より需要が高まっている高等教育国際化の特徴として海外大学とのジョイントプログラムおよび海外大学との提携による大学設立(上海ニューヨーク大学など)について紹介および課題抽出を行った。

 これら5名の報告をまとめた上で、金子元久氏(筑波大学 大学研究センター教授/東京大学名誉教授)がコメンテーターとして、「高等教育の国際化は学生にどのような影響を与えるのか」という質問を投げかけた。具体的には、語学力を身につけ、就職に有利に働くのか、視野が広がり、異なる文化背景を持つ人々と一緒に働く準備となるのか、異文化体験、自分自身を見つめ直すきっかけになるのか、などの例を挙げた上で、教員はそれらについてどれだけ、どのようにして知ることが出来るのか、これらの項目はそれぞれ矛盾しないのかといったポイントについて考えないといけないのではないかとのコメントが出された。

 グローバル人材育成が国策として掲げられ、企業の側もそれに対応する学生の採用を積極的に進めている状況において、今回の国際ワークショップで聞いた話はそれぞれ示唆的であった。欧州からは財政支出(国レベルだけでなく大学機関レベルにおいても)と単位互換の問題、米国からは国際化推進による学生の学習成果、韓国からは英語で行う授業の課題、日本からは従来の大学でどこまで国際化が進められるのか、中国からは海外大学との連携の進め方などが考えさせられた。金沢大学においても、「金沢大学アクションプラン2010」、「機能強化プラン2012」に従って国際化推進に向けた各種整備を行い、グローバル人材育成推進機構、国際機構を設置している。卒業後も継続的に学ぶ姿勢を持ちグローバルに活躍できる学生を育てるため、今後、大学として構成員間でのこれらのプランおよび機構の活動に基づく国際化推進についての統一認識を共有し、学生の学習成果を把握しつつ、留学する学生を増やす、留学生を増やす、学生の英語能力測定方法を検討する、英語で行う授業を増やす、外国人教員採用を増やすなどの個別の取り組みを進めていく必要があると感じた。(文責 評価システム研究部門 堀井祐介)