【No.478】
科学研究費補助金による研究「学習意欲を高める授業科目が教育成果全般に及ぼす影響とその評価」を終えて-その6-

○●○科学研究費補助金による研究「学習意欲を高める授業科目が教育成果全般に及ぼす影響とその評価」を終えて-その6-○●○

 今、主任指導を引き受けている社会人院生と一緒に少しずつ読んでいるのは、小熊英二『<民主>と<愛国> 戦後日本のナショナリズムと公共性』(新曜社、2002年)である。帯に「私たちは『戦後』を知らない これまで語られることがなかった戦争の記憶と『戦争』の姿がいま鮮烈によみがえる」と書かれた全966頁の大著である。丸山真男をはじめとする昭和の思想家たちの営為がちりばめられている。彼らが時代の課題に向き合い、思考を深め、それを論稿にまとめ、結果として日本社会に大きな影響を与えたことが、実感できる。この本に取り組みたいと希望した当該院生も同じ思いであろう。こんな授業では、受講生の学習意欲は明白であるし、教育成果も達成し易い。

しかし、学士課程教育の講義科目ではそうはいかない。私の場合、大学院の授業の翌日には、共通教育科目「日本国憲法概説」で160名近い学生に向かい合い、そこでは学習意欲や教育成果を常に意識しなければならない。多くの教員は似たり寄ったりの状況と思う。全員は無理だとしてもほとんどの学生の学習意欲を触発し、高め、維持し、授業外学修に導き、教育成果を形にしなければならない。演習で十数人の受講生までなら可能であった授業手法はそのまま使えるものではない。

日本経済新聞11月8日付は、「大学は変われるか さらば一方通行の講義議論促し主体性引き出す」と題し「大教室で双方向 『ここまでの説明、分かった人?』。北海道大の大教室で100人超の学生に教員が尋ねると、室内の画面が切り替わる。『分かった75%、分からない25%』。理解度が瞬時に分かる秘密は全学生の手元にある小型通信端末『クリッカー』。2007年の導入以来、学生が授業に積極的になり、全国に広がった。『大教室の授業は試験をするまで理解度が分からなかった』。出村誠教授は振り返る。 『90分授業の最後まで緊張感を保てない学生が増えた』。授業改革に熱心な名古屋学院大の伊沢俊泰経済学部長は学生を飽きさせない授業作りに知恵を絞る。『よほど工夫しないと、何となく進学した学生を引きつけられない』 教員が教えたいことを話し、後は学生の自主性に委ねる姿は過去のもの。教育力が厳しく問われ、大衆化で難関大でさえも受け身の学生が増えた現実が、旧来型授業からの転換を強く迫る」と紹介している。

鈴鹿医療科学大学の豊田長康学長は、ブログ(http://blog.goo.ne.jp/toyodang 11月25日アクセス)で自らの授業科目について次のように記している。

「2009年の学生による授業評価の総合評価の点数が、大学の実施しているアンケートでは4.19」「2013年の点数は、アンケートでは4.91と大きく改善しました。2012年の授業では、アンケートで4.32だったので、2009年と比べて少ししか改善していなかったのですが、この1年間で0.59突然跳ね上がったことになります。やはり、これはクリッカーの効果によるところが大きいと思われ、4.91というのは、ほぼ限界の点数」「クリッカーを使ってみたら、当初僕のした心電図の説明を、ほとんどの学生が理解していないことがわかりました。これではいけないと思い、次の授業時間で、再度説明をしてクリッカーで確認しました。そして、最終的に心電図についてのクリッカーの問題を14回繰り返すことになり、この間手を変え品を変えて説明をしたところ、正解率はでこぼこしながら徐々に上がっていき、最終的にはほぼ全員が正解するまでに至りました。最終的な定期試験の平均点は、昨年のクラスが74.3点であったのに対し、今年のクラスは86.3点となり、同様のレベルと思われる問題に対して、10点以上の成績の改善が見られました。」「(ブレインルールによれば)『10分たつと聴き手の注意はどこかへいってしまう』と書かれています」「講義をして10分話したら、教師は何かをしないといけない」「感情をかきたてるできごとをうまくはさむことができない人にとっては、クリッカーは強力なお助けマンになる。」「クリッカーなどのツールを最大限活用して、ブレインルールに則した生理学的にも理にかなった眠たくない繰り返し講義をすることが、学生による授業評価点数を上げると同時に学習効果を高める秘訣である」。

 11月22日、私は、大阪で開催された「クリッカー(Turning Point)を活用したアクティブ・ラーニング研究会」にて、末本哲雄・大分大学高等教育開発センター講師と家島明彦・島根大学キャリアセンター講師による、それぞれ工夫を凝らしたアクティブ・ラーニング授業実践報告を聴く機会を得た。豊田学長に負けず劣らず、未来ある若手教員たちも、クリッカーを用いて各地で優れた授業改善実践を行っているのである(二つの報告は、主催者によってYouTubeで公開予定)。

 また、内田樹『街場のメディア論』(光文社新書、2010年)は「神戸女学院大学で行われた講義」をもとにしており、そこに次のような指摘がある。「相手が黙って聴いているだけ、という状況でも『双方向性』というのは担保されると僕は思っています。だって、こちらの話が『自分たちを聴き手に想定していない』ということに気づいた瞬間に、学生たちは寝ちゃいますから。学生たちを寝かせないで90分間話を聴かせるというのは、結構な力業です。そのためには、この話は『君たち自身の身に今起きていることだ』という切迫感を持っていただくことがどうしても必須です」

 大学設置基準が義務付けるFDは、「授業の内容及び方法の改善を図るための組織的な研修及び研究」である。授業内容も方法も、多様な試行錯誤と研究によって進化する。それを皆で行うことが「組織的」ということである。11月30日と12月1日には、充実したラーニング・コモンズが今春オープンしたことでも注目される、同志社大学を会場に、大学教育学会課題研究集会が開催される。河田悌一、飯吉透および山田礼子の三氏による「大学教育の質的転換の方向性を問う」と題するシンポジウムも注目される。大学教育の今日的課題に向き合う教員の力、大学の力、学会の力で、授業は間違いなく変わってきているのである。 (文責:教育支援システム研究部門 青野 透)  

○●○日本学生支援機構主催「障障害学生支援研修会【応用プログラム】」に参加して○●○

平成25年11月18日(月)、19日(火)に東京都で行われた日本学生支援機構主催「障害学生支援研修会【応用プログラム】」に参加した。今回はグループワークを通して、障害学生の支援計画の策定とマネージメント、学内における人材活用、配慮願いの書き方、など実践的なスキルを習得することができた。研修会に参加し、グループメンバーとの演習を重ね感じたことは、障害学生支援に担当者ひとりで支援を行うことは現実的には非常に無理があるが、複数の部署や教職員が協力することによって、新しいアイディアが生まれ、可能なことがかなり幅広くなるということである。また、チームで協働することによって、新たな活力が生まれることも体感した。今回の経験を今後の障害学生支援の支えとしていきたい。

なお、8月に行われた同研修会【理解・実践プログラム】については、センターニュース№467をご覧いただきたい。(文責:大学間連携共同教育推進事業 障がい学生等支援担当 濱田里羽)