【No.477】
共通教育から専門教育への教育・学習の連続をはかる

○●○ 共通教育から専門教育への教育・学習の連続をはかる ○●○

センターニュースNo.461「授業デザインにもとづいた能動的学習、そして社会へ転移する統合学習へ」で報告したAAC&Uの提案する本質的な学習成果(Essential Learning Outcomes; ELO)に基づいた共通ルーブリック[1]の取り組みは、大学教育と社会、初中等教育と大学教育を結ぶ可能性を持つ。「鉄は熱いうちに打て」の例えのように、大学初年次(1〜2年次)段階から能動的な学習モードに切り替え自ら学ぶことを会得することを第一歩に、その後の後年次〜大学院教育での高い専門性の獲得を経て、社会に出てからの自己調整・自己管理を求められる生涯学習へと歩み続けられると考える。こうした教育発達段階のプロセスを考えるならば、共通教育段階・大学初年次での学びの「足場掛け」、そして学士課程全体での位置づけとカリキュラム・デザインの重要性が浮かび上がってくる。ELOとルーブリックについては11月1日第16回金沢大学教養教育全学研究会(報告:矢淵孝良氏、講演:松下佳代氏)、筑波大学総合科目については10月30日第17回FD研究会・第22回学生・学習支援研究会(講演:守橋健二氏)の開催報告を兼ねて続報としたい。

11月1日の教養教育全学研究会では、「教養教育で育成すべき力–共通教育のコア・プログラム化に向けて-」をテーマに報告・講演が行われた。まず矢淵氏から、「共通教育のカリキュラム改革の現状」について、必要性と経過の整理の上で、改革を考える指針を得た。教育の質保証を考える上で、学生の学習目標「〜することができる」「〜する能力を身につける」に最終的な到達度を示さずにおいてよいのか、そもそも共通教育の中だけで達成できるものなのか、という問いには、松下佳代氏の『<新しい能力>は教育を変えるか』[2]に解の一つが見出せないか。社会の求めるコンピテンシー育成[3]に基づくコア・プログラムを、学士課程4年(6年)を貫く評価指標(ルーブリック)で評価することが、集大成としての卒業研究への接続となろう。

松下氏の講演「教養教育で育成する能力をどう考え、どう評価するか」では、質保証をめぐる動向から、教養教育で育成する能力をパフォーマンス評価の視点で捉えるものであった。学位の国際的通用性が求められる背景のもとで、国内では参照基準による学問分野別保証を進めている最中であるが、教養教育においてはその適用の範疇にはない。そこで、<新しい能力>の登場し注目される。適用範囲(年齢、地域)と能力の中身(認知的・情意的・社会的側面)の範囲は広く、教養教育ではアメリカ短大・大学協会AAC&UのLEAP計画による目標の規定(=ELO)、評価の開発(=VALUEプロジェクトによるeポートフォリオ・共通ルーブリック)が、この再定義を試みた。学修到達度を測る標準テストは、国内外でベンチマークが試行されている(OECD-AHELO)。これに対し、VALUEによる共通(メタ)ルーブリックは、各大学でのルーブリックの経験から生まれた学士課程にわたる長期的ルーブリックである。これをローカライズすることで共通性と多様性の両立を目指している。1事例であるアルバーノ・カレッジでの教養教育では、8能力×6レベルの機関/専攻/科目ルーブリックによったAbility-Based Curriculumが編成されている。レベル4を卒業要件としており、教員が専攻と能力部門の両方に所属してこれを支えていることが特徴である。能力の育成を、知識・内容の理解と両立させること、具体的な学問分野の文脈の中で「一般的」「分野横断的」に自らの言葉で再記述することが、実行可能性を高めている。質疑応答の際にも課題として挙げられた評価負担を軽減しながら、全学的取り組みとするためには、キーパーソンとなる教員の人望・情熱を執行部がバックアップすること、そして粗くても全学で共通して使えるルーブリックによって評価の客観化がなされるような仕組みづくりが求められよう。なお、本講演の内容に強く関連した論文「パフォーマンス評価による学習の質の評価―学習評価の構図の分析にもとづいて―」[4]に詳しい。

10月30日のFD研究会・学生・学習支援研究会では、筑波大学「現代人のための科学」での討論、クリッカー、TA、LMSを活用したアクティブ・ラーニング科目[5]の実践報告を受けた。守橋氏は、かつての総合科目では「時間」について分野を横断した取組があったものの、履修する学生も開講する教員も、領域を狭くする傾向に危惧を抱く。小笠原正明氏を中心にしたコアサイエンスWGは、2008年からの1年で新しい総合科目を新設できた、その背景には教員同士の共通認識があったようである。授業では、15分に1回のショート・ディスカッションを挟みながら、授業時間75分中の最後15分を討論にあてる。毎回の小レポート(200字)はLMSへの電子提出、最終回の最終討論(25分)とグループ発表(提言と意思決定)、レポート(1000字)により評価する。TAによる演示実験・討論への参加が効果を上げており、質の高い授業運営を達成している点も印象的であった。

よい授業をしたい、学生の成長を促したい、そのために何が必要か。私は、大学教師の教育力と研究力に光を当て、日々の授業と研究を通じて学生の学習に資する、これからの大学教育の立脚を支援したい。教師と学生の成長のために、授業を構成するカリキュラムがどのような学士力の育成をいかに達成できるのかを一体として考える、マクロとミクロ両方の視座が必要だと考えている。

(文責 教育支援システム研究部門 杉森公一)

○●○ 第13回評価システム研究会開催のお知らせ ○●○

日時:11月22日(金)16時30分~18時  場所:総合教育1号館2階大会議室  

テーマ:クリティカルシンキングの評価と育成

講師:久保田祐歌(愛知教育大学 教育創造開発機構大学教育研究センター研究員)

趣旨:大学生のクリティカルシンキングを評価するための標準テスト(主に米国で開発)を紹介する。テストで評価される「クリティカルシンキング」の内容と共に、その育成方法にも言及する。

○●○ 第2回若手教員授業研究会(大学コンソーシアム石川)開催のお知らせ ○●○

日時:12月4日(水)18時30分~20時30分  場所:金沢大学サテライト・プラザ2階講義室

趣旨:FD研修等を通じて教育能力の開発のために様々な情報を得ることができますが、大学教育に関わるようになって10年以内の教員のフォローアップと手を取り合っての連携が、まだまだ必要ではないでしょうか。学生のことも授業のこともさらに学び、教育・研究に携わる者としての教育哲学・研究哲学を研鑽し成長を続けることが求められています。特に、授業をどうするのかについて、大学の枠を超えて教育学・学習科学・専門分野の知恵を持ち寄り、語り合い学び合う「場」が、私たちの教育力の支えになればと願います。詳細:http://ks-edu.w3.kanazawa-u.ac.jp/wakate/



[1]ルーブリックは、Dannelle D. Stevesら”Introduction to Rubrics” 2nd ed., Stylus(2013)に詳しい。

[2]松下佳代編著「<新しい能力>は教育を変えるか —学力・リテラシー・コンピテンシー」、ミネルヴァ書房(2010)

[3]OECDにおける「キー・コンピテンシー」について(文部科学省・審議会資料)http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/016/siryo/06092005/002/001.htm

[4]松下佳代、京都大学高等教育研究、18号、75-114(2012)http://www.highedu.kyoto-u.ac.jp/kiyou/data/kiyou18/07_matsushita.pdf

[5]筑波大学教養教育推進室(2010) http://www.ole.tsukuba.ac.jp/sites/default/files/gendaijin_0.pdf