【No.476】
韓国の大学における質保証について-基礎教育、教育成果測定について-

○●○ 韓国の大学における質保証について基礎教育、教育成果測定について ○●○

2011年に大阪大学、金沢大学の大学教育研究センター等の研究者を中心に日中韓における高等教育質保証に関する共同研究を進めているが、それを継続する形で、今年度複数回にわたり、各国の関連機関や有力な大学への聞き取り調査を行っている。その一環として、 11月4日から6日にかけて、韓国のソウルに赴き、韓国の大学の連合体である大学教育協議会と、延世(よんせい)大学校および成均館(そんぎょんかん)大学校(いずれも私立)をそれぞれ訪問した。今回はそのうち、後者の二つの大学に限定し、基礎・教養教育、内部質保証体制、学習成果測定・評価の項目について簡単に説明していきたいと思う。

両大学は、韓国有数の歴史をもった高等教育機関で、延世大学校は李氏朝鮮王朝末期に来韓した宣教師により設立された医療系の専門学校を母体にしており、一方の成均館大学校は李氏朝鮮時代の官僚養成機関としての成均館を端緒とする最古の大学である。現在はいずれも評価が高く、多数の優秀な卒業生を社会に輩出している。いわゆる先進国キャッチアップ型で、中堅以上の専門職業人養成の膨大かつ急速な要求に応えるために、早くから専門ごとに細分化し過ぎて、韓国高等教育において専門教育に比し基礎・教養教育が過度に軽視されてきた(卒業要件中10%前後)嫌いがある中で、奇しくも両大学は基礎・教養教育を統括的に実施する「学部大学」という組織を1990年代末にそれぞれ設置するなど共通の部分も多い。

延世大学校の場合、「学部大学」は10年来の大学教育改革事業の中核に位置し、様々な要素と絡ませて大学の教育成果を向上させる取り組みとして、注目に値するものである。そもそも学部大学とは、基礎教育の強化、多様な知的訓練、学問の融合・統合にもとづき、1年生の教育を専門的に担当する教育機関であり、学生は入学と同時に1年間、基礎教養科目と専攻基礎教科目を受講し、基礎能力を培っていく。興味深いことは、オックスフォードやケンブリッジ大学の学寮教育をモデルに、全ての1年生(約4000人)を本部キャンパスのあるソウル市内ではなく、仁川国際空港向かいにある新設キャンパス内に設置された寮を教育と生活体験の空間として、学習・共同活動をさせるResidential College教育プログラム(以下RCプログラム)と呼ばれるプログラムを実行していることである(本年から本格始動)。RCプログラムは学習と生活を統合させ全人教育、国際化教育、創意教育を通じて、当該大学が目指すグローバル人材(韓国の有力大学はいずれも志向しているものであるが)が有すべきいわゆるコア・コンピテンシーとしてのコミュニケーション能力(communication)、創造性(creativity)、融合複合能力(convergence)、文化的多様性(の受容)(cultural diversity)、リーダシップ(christian leadership)の5つのCの涵養に教育目標を置いている。前述の基礎教養教育の内容は、大きく共通基礎領域と教養領域で構成され、後者は必修教養領域と選択教養領域に分かれる。必修教養領域には、人間と歴史、国家と社会共同体、生命と環境などがあり、選択教養領域は歴史哲学領域、科学技術領域、言語領域などがあり、これらは日本の教養教育・共通教育でも馴染みがある取り立てて目新しいものはないものの、韓国では一般的に各学部の教員が個々ばらばらに行ってきたことを、一体として体系的に教育を行うこと自体が革新的である。教育課程に加え、各種支援体制も整備されつつあるが、特徴的なものの一つに、新入生への学習・生活指導を強化するために、学部大学所属の教員に加え、(将来専攻する)各学部の教員も共同で指導を行う、専攻連携指導プログラム(dual advising system)を行っていることであり、さらに加えて、学寮には相当数の博士号取得者をSAとして置いて、重層的なバックアップ体制を備えている。他にも様々な制度を整えているようであるが、いずれにしても、インタビューに対応して下さった責任者の言葉を借りれば、「濃密なlearning community」を(大規模に)実現しようとする野心的な試みと言えるであろう。これらの教育効果については、完全実施となる今年の新入生の今後の追跡の結果を待つことになろうが、学習・大学生活に関する前期のアンケート調査等では、学生からも高評価を得ており、学習時間の増大など早くも効果の一端が表れているようで、非常に期待ができる。

さて、成均館大学校は、教育の質保証という点で早くから様々な取り組みを進めているが、何より卒業に必要な単位取得に加え、人間性(一定時間以上の社会奉仕活動)、国際性(一定以上の英語能力取得・TOEIC等の活用)、情報能力の3つ(「三品制」と呼んでいる)の能力取得を義務的に課す卒業認証制度というものを1997年より導入し、一定程度のいわゆるコンピテンシーの修得を図っている。この制度はその後韓国の多数の大学にも導入されている。これらに加えて、近年では、学習成果の測定・検証という部分で新しい体制づくりに勤しんでいる。

上記の三品制ともつながっているが、成均館大学校では、学生が在学中に涵養すべき能力として、人文力量・意思疎通力量・学問力量・創意力量・リーダー力量、グローバル力量の6つから成る「成均革新力量(コア)」を構成し、これらの能力を測定するために、学内の大学教育効果センターを中心に、測定道具(SCCA:Sungkyun Core Competencies Assessment)を独自に開発して(各力量は、それぞれ23、31、32、44、40、24項目と合計194項目で成り立つ)、20011年より実施し、教育効果の検証と改善に役立たせている。

         

 

また上記の力量は、正規の教育課程のみで達成するものではなく、別途、「成均非教科プログラム」(extra curriculum)を開設し、学内の関連機関(キャリアセンター、語学センターなど)のバックアップのもと、マイレージ制度による単位積み立てにもとづき、学生の主体的な学習活動にインセンテイブを与えるような仕組みを構築している。

ここまで部分的に各大学での取り組みを紹介したが、共通することは、学生に有用な能力を実につけさせるために、大学全体が有機的に連携し(意識改革を伴い)、計画し実践し検証を行っている点である。こうした考え方は、本学の大学教育改善においても参考になると思われる。

                     (文責 評価システム研究部門 渡辺達雄)

○●○ 第3回評価システム研究会開催のお知らせ ○●○
日時:11月22日(金)16時30分~18時  

場所:総合教育1号館2階大会議室  

テーマ:クリティカルシンキングの評価と育成

講師:久保田祐歌(愛知教育大学 教育創造開発機構大学教育研究センター研究員)

趣旨:大学生のクリティカルシンキングを評価するための標準テスト(主に米国で開発)を紹介する。テストで評価される「クリティカルシンキング」の内容と共に、その育成方法にも言及する。