【No.475】
ドイツの大学改革事情

○●○ドイツの大学改革事情○●○

 この10月末にボローニャ・プロセスの大学への影響を研究する科研[1]でドイツの3つの大学(RWTH Aachen University[2], Universität Duisburg-Essen[3], Heinrich Heine Universität Düsseldorf[4])を訪問し大学教育改革状況について調査を行った。今回はそのうちの2大学でのプロジェクトについて紹介させていただく。以下の説明の前提条件として、現在ドイツには約180の大学があり、約250万人の学生が学んでいる。ドイツの大学においてもボローニャ・プロセスにより学士3年+修士2年+Ph.D3年制度、ECTS、科目モジュール制度は導入されている[5]

 まず、Universität Duisburg-Essenについて述べさせていただく。この大学にはドイツでも有数の規模を持つ高等教育研究センター(Zentrum fur Hochschul- und Qualitatsentwicklung (ZfH), Center for Higeher Education Development and Quality Management)[6]があり、外部資金雇用も含めて35名のスタッフが大学における教育改革および質管理に当たっている。同センターの主要活動の一つにHigher Education Didactics[7]がある。”teaching to learning”「教えるから学ぶへ」をモットーとしたいわゆるFDに当たる活動で、ワークショップ形式で基本6コース、アドバンスト6コースプラスアルファで220時間の研修を受けるとZfHセンター名で修了証明書が出る。この証明書は学内にとどまらずドイツ国内で有効となっている。ワークショップの内容としては、教授法とジェンダー、モジュール制度理解、成績評価(grading)、授業コースの評価(evaluation)、プレゼンテーション力、コミュニケーション力などがある。これらの研修には主に新任、若手教員が参加するが、いわゆるフルプロフェッサーと呼ばれる層を対象としたワークショップも別途開催されている。このほかに英語での授業に関する研修や、チューター向けプログラムも担当している。また同センターでは2年計画のカリキュラムデザインに関するプロジェクトも進めている。これはCUNST(Curriculum Nachhalting Stärken)と名付けられている。アクレディテーションが求めているものにも対応しながらアクレディテーションを超えてのカリキュラムの質向上を目指すものであり、カリキュラムデザインと教授法の関連性について研究成果を実践に反映させていくものである。3つの大きな柱があり、一つ目はカリキュラムデザイン、すなわち新規カリキュラムおよびカリキュラム改革におけるカリキュラムデザインを一緒に考えるものであり、2つめはteaching & learning(T&L)であり、そこでは、大人数授業、プロジェクト型授業、コンピテンス測定試験、研究に基盤を置く学びの4つについて専門家を招いてのワークショップを開催するものであり、3つめは教育プログラムコーディネーター養成ネットワーク構築、すなわち経験のある教員と経験の浅いまたは無い教員を結びつけネットワーク化するものである。このプロジェクトは”teaching to learning”「教えるから学ぶへ」を実践するためカリキュラムを中心に据えての教育改革の取り組みとして今後の成果が期待される。

 Heinrich Heine Universität Düsseldorfには高等教育センターは設置されていないが、教育担当副学長をトップとするiQu(Integrierte Qualitätsoffensive in Lehre und Studium, Integrated Quality Initiative for Teaching and Studies)[8]というプロジェクトが動いている。これは、連邦政府および州政府が協力して実施している学習環境と教育の質向上を目指した補助事業に採択されたものであり、2012年4月から2016年末までの約5年のプロジェクトであり、この期間中に約900万ユーロの補助金が出ている。このお金により30名のスタッフを新たに雇用し、全学としての教育改革を進めている。このプロジェクトの主目的は、大学における学生中心の学習への転換であり、「高等教育の進化」、「e-Learning」、「学問実現可能性」、「多様性対応へのアドバイス」、「学生負担および学生とチューター比率」、「授業サポート」などの項目が活動対象となっている。同大学においてこれらの活動が切実に必要となった大きな要因として学生総数が16,200名(2007年)から26,500名(2013年)と急激に増えたことがあげられる。学生数の膨張により真の教育改革が求められるようになったのである。プロジェクトのより具体的な活動としては、修了率[9]が低い学科のサポートがある。例えば、現状では、数学科の修了率は50%で半数の学生がドロップアウトしてしまう。それに対して、学生目線で考え、何が悪いのかを確認し、もし教え方が悪ければ教え方を変えるなど学部・学科をサポートしたり、3または4セメスター目(学士課程3年の中間段階)で修了が危ないと思われる学生を個別にサポートしたりする。また、主に新任や若手教員向け研修やワークショップも開催している。これらの研修は全ての教職員およびPh.D学生が参加できる。このほかに、iQuはinternational officeと連携して学生相互に助け合う仕組みとしてのチュートリアル制度も支援しており、チューターとなった学生には一定数の単位(ECTS)が出る仕組みとなっており、留学生支援や低学年学生支援に効果がある。iQuプロジェクト個別の活動を見ると金沢大学においても大教センターおよび学類が実施しているFDと大きく異なる点はなく、特に目新しい内容があるわけでもない。ただ、それらを包括的全学活動として大規模に進めている点は注目すべきであり、今後の活動およびその成果についても情報交換していきたいと考えている。ちなみに同大学は金沢大学の部局間交流協定校であり、科研調査の後の昼食時には現代日本研究科の島田先生が同席され、学生交流にとどまらず今後は教員、研究交流も積極的に進めたいとのことであった。

 両大学の取り組みからは、魔法のようなツールは出てこない。それよりもむしろ地道にワークショップや研修を開催し、学生中心、すなわち”teaching to learning”「教えるから学ぶへ」と教員の意識を変えていくことで教育の質を向上させ、学生により高い能力をつけさせる取り組みを全学的に大規模に進めている例として金沢大学の教育改革に役立つ成果がでるかどうか、今後の推移を見守っていきたいと思う。(文責 評価システム研究部門 堀井祐介)

 

 

●○●第3回評価システム研究会開催のお知らせ●○●

日時:11月22日(金)16時30分~18時    

場所:総合教育1号館2階大会議室  

題目:クリティカルシンキングの評価と育成

講師:久保田祐歌(愛知教育大学教育創造開発機構大学教育研究センター研究員)

趣旨:大学生のクリティカルシンキングを評価するための標準テスト(主に米国で開発)を紹介する。テストで評価される「クリティカルシンキング」の内容と共に、その育成方法にも言及する。



[1](平成23年度科研「ユニバーサル段階におけるヨーロッパの学部専門教育の変容」(基盤(C)、課題番号23530990、研究代表者東京農工大学吉永契一郎))

[2]www.rwth-aachen.de

[3]www.uni-due.de

[4]www.hhu.de

[5]www.hrk.de/activities/bologna-process

[6]www.uni-due.de/zfh

[7]www.uni-due.de/zfh/events/index.php

[8]www.iqu.hhu.de

[9]標準年限修了率ではない。何年かかろうと修了した学生は数えた上での数字である。