【No.473】
科学研究費補助金による研究「学習意欲を高める授業科目が教育成果全般に及ぼす影響とその評価」を終えて-その5-

○●○科学研究費補助金による研究「学習意欲を高める授業科目が教育成果全般に及ぼす影響とその評価」を終えて-その5-○●○

 当センターは学内の各部局からFDの取組への参画を依頼されることがある。今年も、学校教育学類から依頼を受け、私を含めて3名が指定討論者として、学類のFD研究授業に参加した。

改めて確認すれば、FDは授業内容・方法の改善のための組織的研修・研究である。研究授業もふりかえりの作業を共同で行ってこそ初めて、組織的なものといえる。今回の学校教育学類では授業後、40分ほどの時間をとり、私たち3名に加えて、学類から1名、学外から1名の合計5名が指定討論者となり、他の参加者とともに「整理会」が開催された。

私は、<授業内容は非常に分かりやすかった><5分ほどの実習、レクチャー、グループワーク、プレゼン、まとめとメリハリをつけて構成されていた><レクチャーでも学生への指名質問を行い双方向授業が意識されていた>と評価したうえで、<予習はどのように行わせていたのか><授業前と授業後での学生の授業対象に対する認識の変容についてはどのように確認しているのか>について尋ねた。担当教員からは<復習は出しやすいが、予習は出すのが難しい>、<認識の変容については、毎回の授業ごとではなくて、学期の前後で確認している>との回答が得られた。

こうしたやり取りこそが大事である。15回の授業の一回だけという限界はあるが、このように専門外のあるいは、学外の教員の眼から見ればどうなのかを知ることが、授業改善を意識しているのであれば、本当に役に立つことになる。

どの指定発言者からも、内容的にも学ぶことの多い科目の授業であったとの指摘があった。この授業については改善課題は、予習課題の開発と、他の科目との連携だけだろうとの印象を強くして、整理会の会場を後にした。

 さて、「FD」という研究に対して、熱の入らない大学教員が多いと指摘される。おそらくは、誰のため、なんのための授業研究か、について納得がいっていないからではないかと考えられる。けれども、誰のため、何のための授業かということを考えれば話は簡単である。そして、学生たちがその授業を何のために受けているのかということを少し考えればいいだけではないかと思う。

 村上春樹の『ノルウェイの森』に次のような一節がある。

 「僕はしばらくのあいだ講義には出ても出席をとるときには返事をしないことにした。そんなことをしたって何の意味もないことはよくわかっていたけれど、そうでもしないことには気分がわるくて仕方がなかったのだ。しかしそのおかげでクラスの中での僕の立場はもっと孤立したものになった。名前を呼ばれても僕が黙っていると、教室の中に居心地のわるい空気が流れた。誰も僕に話しかけなかったし、僕も誰にも話しかけなかった。」

 単位欲しさのために出席だけはする、代返を頼む、という学生たちと対比すれば、なんとも不可解な存在であるだろう。この小説で描かれているのは、40年以上前の東京の私立大学であるが、今は、出欠管理システムに基づき、欠席が数日続けば、本人や場合によっては親に連絡をするような大学さえある。いまどきの大学としては、この小説の主人公は想定外である。

 だが、上記の一節は次の文章へと続く。

 「九月の第二週に、僕は大学教育というのはまったく無意味だという結論に到達した。そして僕はそれを退屈さに耐える訓練期間として捉えることに決めた。・・・僕は毎日大学に行って講義に出てノートをとり、あいた時間には図書館で本を読んだり調べものをしたりした」

 つまり、出席に返事をしないことを除けば、授業時間中にノートを取り、授業外学修を自発的に行っている、理想の学生なのである。そして、寮や学外での多様な学びによって十分、学生として多くの経験をし、成長をしている。こういう学生が、小説の中ではあるが、かっていたのであろうし、今、私たちの教室にもこのような学生がいるのかも知れないのである。

 一人一人の学生とのふれあいがあれば、こういう学生のために授業をしているのだ、授業研究もやりたいという動機が出てくる。それが学生支援を重要なFDとして位置付けるゆえんでもあり、そうした動機があるからこそ、上記のような授業研究と整理会に大きな効能が期待されるのである。

(文責 教育支援システム研究部門 青野 透)

 

○●○第16回FD研究会開催のお知らせ○●○

日時:10月28日(月)15時00分~16時20分       場所:総合教育1号館1階小会議室

テーマ:「ICカード活用型レスポンスシステム「LENON」による反転教室(Flipped Classroom)」

報告者:白嶋章(株式会社TERADA.LENON)

趣旨:大学教育開発・支援センターでは、学生の発見を指向するクリッカーLENONの開発元であるTERADA.LENONとの新規の共同研究を開始する。研究のスタートアップとしてLENONシステムの概要と、特に医歯学教育でのTBL(Team-Based Learning)活用事例を報告いただき、協調学習・アダブティブラーニング・ブレンディッドラーニングを用いた反転教室の実現の可能性を議論したい。

○●○第17回FD研究会・第22回学生・学習支援研究会開催のお知らせ○●○

日時:10月30日(水)16時30分~18時00分       場所:総合教育1号館2階大会議室

テーマ:「文科系向け科学リテラシー教育におけるアクティブラーニング型講義の実践-ポータル/TA/クリッカー活用-」

報告者:守橋健二(筑波大学数理物質科学研究科・教授)

趣旨:『現代人のための統合科学―ビッグバンから生物多様性まで』(自然科学の進歩によって、素粒子の世界から宇宙の未来までの時空間が、知識の網によってすきまなく覆い尽くされようとしている。本書では、諸科学が紡ぎ出した糸で編んだ継ぎ目のない網としての現代科学の成果を、わかりやすく俯瞰。練習問題や基本的な用語の解説を含んだ、大学の教科書としても、また一般の読み物としても有益な科学のハンドブック。)を出版し、金沢大学共通教育科目に相当する「総合科目」にてクリッカー・ポータル等を活用されたユニークな科学リテラシー教育を実践している。筑波大学でのクリッカー活用型講義については、2012年8月中教審「質的転換」答申にも言及され、先駆的な取り組みとしても注目されている。今回は、大人数講義において双方向型の科学教育をどのように可能としているか実践事例を提供いただき、いま大学教育に求められる学生主体の能動的学びについて議論したい。