【No.472】
教育接続を問う、リメディアル教育と初年次教育の視点

○●○ 教育接続を問う、リメディアル教育と初年次教育の視点 ○●○

前号のセンターニュースNo.471で示された中等教育—大学教育との接続の課題を受け、本稿では、幼保から小中高大そして社会への教育接続(K-12、K-16あるいはK-21と呼ぶ教育の連続性)の意義を問いたい。知識基盤社会に移行する情勢にあって、幼保=前初等教育段階(Kindergarten)から12~21年間の教育内容の連続性を考慮することが、すべての学校種で教育にあたる教職員に必須の視点である。初等中等高等教育での能力に基づく学習成果(Ability-based Learning Outcomes)達成の連携が図られなければ、大学はレジャーランド化どころか単なる通過点としてその存在意義を急速に失うことになるだろう。大学を含む短大、専門学校での教育課程は、高等教育あるいは第三段階教育(higher education / post-secondary education)と呼ばれるが、8月7日に発表された学校基本調査速報[1]では、大学・短大進学率(現役)が53.2%と前年比から0.4ポイント漸減したものの高等教育機関への進学者(過年度卒を含む)は77.9%という高水準にある。高校生人口109万人の内85万人が高校以降に何らかの学びの機会を得ていることになる。2008年に到来したとされる「大学全入時代」のインパクトは、2012年に大学4年生の世代に達し、さらに現在は大学院教育の段階へ歩を進めてことになっていることがお分かりだろうか。そして、高水準の大学進学率は維持され、後戻りすることはしばらく無いだろう。

小中高大接続の議論は、入試制度の問題を越えた連携へ向かわなくてはならない。つまり、従来の大学入試選抜が機能する幻想は過去のものになり、すべての教育段階のあらゆる教育機関が覚悟をもって、すべての学生(学習者)の能力向上を目指す時代に進んでいる。ただし、その能力を測るべき評価指標は、教育段階・教育機関・教員学生個人のレベルでも異なっている。文化の違いともいうべき深い谷が、教育接続の実質化を阻んでいる。教育理念の違いを明らかにしながらも、境界領域で基準の擦り合わせを行うのに有効なツールの一つが、ルーブリック(Rubrics)や学習ポートフォリオであろう。それら教育評価を実質化させるための教育方法は、教育接続の表裏をなす。

8月29-30日「日本リメディアル教育学会第9回全国大会」、9月12-14日「初年次教育学会第6回大会」に参加し、各大学の取組に優れた教育方法の事例を見出した。日本リメディアル教育学会でのテーマは「学校教育のトータルプロデュース―危機に立つ大学教育―」であったが、小河勝・大阪府教育委員による招待講演「義務教育と高校・大学教育との連携」にて、算数と国語を例に、分からない部分を残しながら大学へ進学している子どもたちのつまずきの実態への警鐘が強く印象に残った。基礎学力は思考の土台概念であり、ベーシックな概念であればあるほど、授業を受けるたびにきつい経験を繰り返す「つまずきの二重構造」に救われる道がないということである。これを解消するために、学会期間に発表された、英語・理数系の能力に対する学習支援環境、教職協働、高大連携授業の取組の数多くの事例が、着実な成果を上げつつあると感じられた。

初年次教育学会では、学会テーマ「初年次教育から始めるキャリア教育」によるシンポジウムにて、初年次教育とキャリア教育の関係について川嶋太津夫、井上千以子、西村秀雄、白木みどり各氏からの話題提供により、議論が深められた。キャリア教育を通して、高校~大学~社会へと接続するのは学習力=転移可能なスキルであり自己学習の生涯継続であるという視点、発達観・学習観・授業観の転換をキャリアの再構築として促す視点、カリキュラムにキャリア教育を埋め込む「仕組み」によって教育効果測定が可能となるIRの視点、自己理解・自己管理能力(よりよく生きようとする人間の能力)によって「社会」に向かって自己の位置づけを学生自らが気づく仕掛けを系統的・計画的に行うという視点、それぞれは大学1年生からの学びが社会に確かに接続する教育の在り方を示した。

対面で行われる個別の教育事例の積み重ねが、高等教育の現在を形作る。一連の学会では、様々な大学・短大での、多様な取り組みを目の当たりにし、発表者の息の長い教育研究の実践に圧倒された。すべての教育活動の背景に「学生の可能性を信じている」というメッセージが込められており、教育実践学ともいうべき教育の研究・実践が、これからの教育接続を支えていく実感がある。

(文責 教育支援システム研究部門 杉森公一)

 

 

○●○大学コンソーシアム石川2013年度 第1回FD・SD研修会開催のお知らせ○●○

日時:10月23日(水)17時30分~19時00分       場所:しいのき迎賓館セミナールームA

テーマ:「理系大学院における留学生に対する教育 -英語による個別指導を中心に-」

講師:島原秀登(北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアルテクノロジーセンター 助教 )

詳細:http://www.ucon-i.jp/fdsd/2013/10/2013-1fdsd.html

○●○第16回FD研究会開催のお知らせ○●○

日時:10月28日(月)15時00分~16時20分       場所:総合教育1号館1階小会議室

テーマ:「ICカード活用型レスポンスシステム「LENON」による反転教室(Flipped Classroom)」

報告者:白嶋章(株式会社TERADA.LENON)

趣旨:大学教育開発・支援センターでは、学生の発見を指向するクリッカーLENONの開発元であるTERADA.LENONとの新規の共同研究を開始する。研究のスタートアップとしてLENONシステムの概要と、特に医歯学教育でのTBL(Team-Based Learning)活用事例を報告いただき、協調学習・アダブティブラーニング・ブレンディッドラーニングを用いた反転教室の実現の可能性を議論したい。

○●○第17回FD研究会・第22回学生・学習支援研究会開催のお知らせ○●○

日時:10月30日(水)16時30分~18時00分       場所:総合教育1号館2階大会議室

テーマ:「文科系向け科学リテラシー教育におけるアクティブラーニング型講義の実践 -ポータル/TA/クリッカー活用-」

報告者:守橋健二(筑波大学数理物質科学研究科・教授)

趣旨:『現代人のための統合科学―ビッグバンから生物多様性まで』(自然科学の進歩によって、素粒子の世界から宇宙の未来までの時空間が、知識の網によってすきまなく覆い尽くされようとしている。本書では、諸科学が紡ぎ出した糸で編んだ継ぎ目のない網としての現代科学の成果を、わかりやすく俯瞰。練習問題や基本的な用語の解説を含んだ、大学の教科書としても、また一般の読み物としても有益な科学のハンドブック。)を出版し、金沢大学共通教育科目に相当する「総合科目」にてクリッカー・ポータル等を活用されたユニークな科学リテラシー教育を実践している。筑波大学でのクリッカー活用型講義については、2012年8月中教審「質的転換」答申にも言及され、先駆的な取り組みとしても注目されている。今回は、大人数講義において双方向型の科学教育をどのように可能としているか実践事例を提供いただき、いま大学教育に求められる学生主体の能動的学びについて議論したい。

 



[1]平成25年度学校基本調査速報の公表について(文部科学省) http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/25/08/1338336.htm