【No.471】
大学教育の質保証-中等教育との接続、グローバル化の変化の中で

○●○ 大学教育の質保証中等教育との接続、グローバル化の変化の中で ○●○

2013年9月21日、22日に埼玉大学で開催された日本教育社会学会大会において「教育における質の保証を考える-中等教育と大学教育との接続をめぐって」というテーマで課題部会が設定され、参加した。

報告者の一人である深堀聰子氏(国立教育政策研究所)は、大学教育の文脈における質保証の課題を分かりやすく整理していた。大学進学率上昇とグローバル化は、知識の創造と伝達の役割にあって、これまでのように学術的な専門知識・技能を学生に修得させるに留まらず、いわゆる知識統合・応用能力やコミュニケーション能力等の習得が声高く求められてきている。ここから大学教育の成果として学生に専門知識等をいかに習得させる(た)かという「コンテンツ」の観点より、学習を通して何ができるようになったかという「コンピテンシー」の観点が問われる状況にシフトしたとみられる。そうした文脈で視野に入れておくべき動向として、国際的には「チューニング」そしてOECDによる「高等教育の学習成果調査(AHELO)」であり、国内的には学士課程に共通の学習成果指針としての「学士力」および日本学術会議が策定している「分野別参照基準」が挙げられる。チューニングは主にヨーロッパで進められているが、学生が学位プログラムを終えた段階で何を理解し実行できることが期待されているかという観点で、専門分野ごとに大学間で共有すべき基準が記述されている。これを参照して、各大学がコンピテンス習得のために適切なカリキュラムを工夫し、かつ各科目レベルで達成すべき学習成果を定義し、成果習得が単位認定の条件とすることを謳っている。一方AHELOは、チューニングの枠組に依拠し国際的に通用するテストの開発を目指しており、例えば工学分野で、①工学基礎・専門②工学分析③工学デザイン④工学実践⑤工学分野における一般技能の要素からなるコンピテンスを測定する問題の作成が試みられている。

大学教育の質保証のアプローチは、学生・保護者、企業、納税者等が理解しやすいもの(評価指標)を構築し、また具体的に学習成果を証明することに帰結する。高校との接続では、大学での学習に向け、学生がいかなる資質(基礎学力・学習習慣等)を有すべきかを明らかにし(アドミッション・ポリシー)、大学教育への準備態勢を高めることが求められるし、また教員が何を教えられるかではなく、学生にいかなるコンピテンスを獲得させるかに従って、科目を配置し、各科目の中で学習成果は学習期間内に達成でき測定可能なものにしていかなければならないし、教育評価が客観的になるよう努めていく必要がある(カリキュラムポリシー、アセスメントポリシー)。さらに大学での学習内容が卒業後にどう活かされるかについて(併せて学生の進路先を適切に把握し、育成する人材像を明確にした上で)、コンテンツベースでなくコンピテンスベースで説明し、必要であればコンテンツの比重や配列を変更することも当然求められてくるであろう(ディプロマポリシー、アセスメントポリシー)。

さて、中等教育との接続の観点では、また別の問題が存在し、今後検討が求められることになる。つまり、日本では高校をはじめとする大学以前段階の教育課程は依然コンテンツベースの学力観に立っており(OECDの学習到達度調査は、知識習得に留まらず知識の活用力も問うものであり、それを目指す国・地域も現れつつあるが)、上記のような大学教育改革で拠って立つところのコンピテンスベースの学力観と齟齬が生じる可能性があることが指摘される。加えて、同部会で高大接続・大学入試の視点から報告された荒井克弘氏(大学入試センター)は、(戦後の大学入試の歴史的経緯はここでは詳しく述べないが、そこから)高大接続は、理念的にも制度的にも、そしてこれらと実態との間に乖離があると述べている。そして現在の高等教育の予想を超えた拡大は、高大接続に重大な課題を与えているという。

一つが、学校段階に応じた教育課程の積み上げが困難になり(可能な者はほんの一部)、進学にともなう適切な(従来のような)教育課程の積み上げがこのまま有効であるのか、さらにそれに替わるような新たな仕組みが考えられていないという状況にある。そして二つ目は、高校以前と大学との間に、教育内容・教育方法等が不連続で、同心円的な教育課程の積み上げにそもそもなっていない(クロスしている)のではないかと考えられることである。非常に難しい課題であるが、高校以前と大学間で両者の接続面がどこにあるかを見つけ、認識を共有化することが必要であり、そのために、例えば、多様な評価資料の統合であったり、資料の補完的利用の他に、高大の教育課程の新しい(タイプ)の相互乗り入れが必要ではないかと主張されている。

いずれにせよ、質保証の議論は、高等教育だけでなく、高校教育の現場にも拡大しつつある様相を呈している。各大学は、こうした文脈の大変化を充分意識しつつ、実践を進めていく必要に迫られている。                 (文責 評価システム研究部門 渡辺達雄)

 

○●○ 研究会開催のお知らせ ○●○

・第15回FD研究会、第22回学生・学習支援研究会合同開催

日時:10月30日(水)16時30分~18時00分
場所:金沢大学角間キャンパス 総合教育1号館2階大会議室

テーマ:「文科系向け科学リテラシー教育におけるアクティブラーニング型講義の実践

-ポータル/TA/クリッカー活用」

報告者:守橋健二(筑波大学数理物質科学研究科・教授)

 

・大学コンソーシアム石川主催 2013年度 第1回FD・SD研修会
日時 10月23日(水) 17時30分~19時
会場 しいのき迎賓館 3階 セミナールームA
テーマ「理系大学院における留学生に対する教育 -英語による個別指導を中心に-」
講師:島原秀登(北陸先端科学技術大学院大学 ナノマテリアルテクノロジーセンター助教 )

趣旨:科学的・経済的発展を日本に夢見る留学生は、勉学によって人生を切り開こうとする高い志をもっています。彼らの経験は、彼らの社会にとって有益となるだけでなく、日本社会に対してもまた計り知れない還元をもたらすため、私たちが彼らを適切に支援することは非常に重要です。しかし、そこで使われる言語を体系化することが今なお議論されており、その指導方法の確立が喫緊の課題です。講演者は理系大学院や大学機間である留学生日本語教育センターにおいてface-to-faceに個別指導を行った経験から、彼らとうまくコミュニケーションをとる簡便な手法・手段を紹介し、社会全体で彼らをサポートする雰囲気作りを提案します。