【No.466】
教育のオープン化がもたらすもの、高等教育開発・大学評価への学生参画

○●○ 教育のオープン化がもたらすもの、高等教育開発・大学評価への学生参画 ○●○

教育資源のオープン化は、オープンコースウェア(OCW)、国境を越えた大規模オンライン大学(MOOCs)の実現によって、時間と場所に制約されない「学習の革命」として大学教育に迫ってきている。8月2−3日に東京大学駒場キャンパスで開催された2013PCカンファレンス(全国大学生協主催)の基調講演[1]に詳しく報告されているが、京都大学のedXへの参加表明に続き、東京大学がCourseraを通じて2講義を提供する。東京大学の2講座は既に全世界で4万人の受講予約者を集めた。東京大学の村山斉特任教授による「From Big Bang to Dark Energy」(ビッグバンからダークエナジーまで)は、この9月3日からWeek 1の講義映像と事後課題などが配信される予定になっている。朝日新聞6月5-6日記事「開かれた学び オンライン授業の衝撃(第2部)」[2]によれば、国内でも、高校生向けの授業映像(各地の大学生が講師となっている)を無料公開するマナビー(manavee.com)が情報・教材不足の地方在住の受験生を助けている。マサチューセッツ工科大学(MIT)の無料オンライン講義を導入したモンゴル国立大学の電子工学部の学生は、MITの教授から流行の手法を学ぶ。分からないところがあればモンゴル大の講師に聞くが、教室に集まるのは試験だけであるという。

大学教育が、対面の教育によって何をなすことができるのかが問われ、また自らに問う局面が訪れている。確かに、技術的な進歩によってオンラインで不可能なことは少なくなってきた。一方で学生と教師が同じ空間と時間を共有することから生まれるもの、講義の持つ力も、私は信じる。教師としての大学教員が、学生に問いを発し、学生同士が学ぶ意欲を触発し合う中から、次世代の課題解決を担う人材が育つのである。講義形式による情報伝達は、オンラインのビデオ・チュートリアル上で学生が予め視聴し、教室では知識確認や討論活動を行う「反転教室」(Flipped Classroom=座学を自宅で、復習を教室で)の概念が生まれ、ドロップアウト率の減少と学習定着率の向上を果たしていることは、これからの大学教育の可能性の1つを示している。

 

さて、対面の教育・学習効果を高める工夫は、講義だけにとどまらない。教職員の恊働によって組織的な多面的な教学改善を進め、さらに学生の声を大学経営・大学評価に反映させることが、キャンパスコミュニティの活性化につながる。7月13日「日本高等教育開発協会(JAED)京都国際シンポジウム 各国の高等教育開発者と語る日本の高等教育開発の未来」、7月22日「大学評価・学位授与機構平成25年度大学評価フォーラム 学生のまなざし―高等教育質保証と学生の役割[3]」に参加した。世界各国の高等教育開発の状況、質保証への学生参画の勢いを感じるものであり、両方とも学生FDスタッフが参加、国内外の研究者とのディスカッションに活発に加わった。

JAEDシンポジウムでは、James Wisdom国際教育開発協会(ICED)会長の基調講演「高等教育開発の世界的潮流」でのいくつかの問題提起を受けて、会場と14カ国+オブザーバー参加の中国の代表者からの事例紹介とパネル討論、分科会に分かれてのグループ討論が行われた。筆者は、オランダ(大学教授資格の要件が厳格)と南アフリカ(人種流入のノイズとギャップの解消が必要で高大接続のbridging course含む再設計を指向)の代表者との討論グループに参加した。教員・職員あるいは教育・研究の二項対立の構図の中で、誰が教育開発者となるのかが中心的な話題になったが、オランダの例では様々な分野の学位に加えて、教材開発や教授学習過程の評価などの多様な知識を学び、さらに様々な研究を行うことが必要とのことであった。各国とも大学進学率の向上を背景に、進学率5%時代の同質な学生像ではない多様な能力を持つ学生の「受け身の学び」が共通の課題であったが、だからこそ学生の動機付け・関与・環境に影響を与える「教育開発」が求められている。学生を積極的に教育に参加させたい・学生の経験を変えたいのならば、能力をベースにした教育プログラムの構造化とアセスメントを要する。英国ではトップ校の1年生でも動機付けの低く講義形式を好む状況にあり、アクティブ・ラーニングからの逃走も起きている中で、学生が公の場で話す経験(場)の提供と学習の質・意義・責任をデザインすることが提言としてなされていた。

大学評価フォーラムでは、ヨーロッパ・フィンランドでの質保証への学生参画と英国大学での学生参画の事例の各講演、日本での学生参画に向けての分科会討論が行われた。Helka Kekäläinen欧州高等教育質保証協会(ENQA)副会長は基調講演Iで、教えることから学ぶことへの概念的変容、知識の創造者としての学習者自身が自分を評価する能力が求められ、PBL(課題解決型学習)を通した意志決定ができる人材が「知識社会」に求められている背景を概説した。さらに、2005年からのENQAの視点は、内部・外部質保証に学生参画を位置づけており、フィードバック、行為者として課題解決に関わる、学びの専門家、学生とスタッフとの密接なパートナーシップ、というガイドラインを示した。英国からはDan Derricottリンカン大学学生参画オフィサーが基調講演IIで、学生として全学戦略の策定・実施・点検評価にあたっている経験から、学生が単なる消費者ではなく、学生自身の状況についての専門知識を基礎に、学生代表・変革推進者・職員サポート・学生評価者の4視点からの実践を紹介した。その後の分科会の議論にも、日本の学生FDスタッフ・学生委員が参加し、議論まとめてパネル・ディスカッションの壇上に上がった。彼ら彼女らの提言からは、大学と学生の相互理解の重要性と、そして教育が学生のものになっているのか、教授者と学習者双方がteachingとlearningのプロになっている自覚があるのかという問いを再認識させられた。

 

この大学評価フォーラム終了後、ある学生参加者から私信をいただいた。一部を紹介する。

このフォーラムを通して、私自身は大学の質保証における学生の役割や学生自身が学びのエキスパートとしての自覚を持つべきことなどについて、深く考えさせられました。高等教育の質保証は、これから教育の場に身を置こうと思っている私にもとても関心のある問題です。大学の内部質保証については、学生にとっても重要なことであることをこのフォーラムに参加して実感しました。

大学教育の位置づけとミッションが問われている現在、学生が大学教育に関心を持ち、大学での教育・学習活動の内部質保証に主体的に参画することに、学習者中心の学びを実現するヒントが見出せる。教え、学ぶことの意味に一人ひとりが向き合うことは、自明のことなのかもしれない。大学教職員と学生の対話と協働から生まれる、当たり前の日常を確かめながら、講義の1回1回を大事に重ねていきたい。

(文責 教育支援システム研究部門 杉森公一)

 

 

○●○平成25年度全国大学教育研究センター等協議会 公開プログラムのご案内○●○

日時:9月5日(木)13:30~15:10    場所:金沢大学角間キャンパス自然科学大講義棟大講義室

13:30-14:10 基調講演(質疑応答含む)「認証評価制度と自律的な評価規範としての認証評価基準」

早田 幸政氏(大阪大学評価・情報分析室教授)

14:10-14:40 報告1(質疑応答含む)「大学教育のアセスメントと有効性-IR機能組織化の観点から-」

小湊 卓夫氏(九州大学基幹教育院准教授)

14:40-15:10 報告2(質疑応答含む)「大学における実践的教育学が果たす役割」

森 朋子氏(島根大学教育開発センター長・准教授)



[1]重田勝介「MOOCsのインパクトと高等教育の未来」(当日スライドが閲覧可能)http://www.slideshare.net/katshige/20130803shigeta-small

[2]朝日新聞2013年6月5日「(開かれた学び オンライン授業の衝撃:上)地方受験生、「壁」超える」同6月6日「(開かれた学び オンライン授業の衝撃:下)学び直しの機会、もらった」

[3]http://www.niad.ac.jp/n_kenkyukai/1215651_1207.html(当日資料がダウンロード可能)