【No.465】
学生のうちに経験させたいこと-大学生の今、変わる企業 (大学生研究フォーラム2013参加報告)

○●○ 学生のうちに経験させたいこと大学生の今、変わる企業

(大学生研究フォーラム2013参加報告) ○●○

2013年8月17日に東京大学本郷キャンパスで開催された大学生研究フオーラム2013に参加した。当フオーラムは、2008年より京都大学高等教育研究開発推進センターと電通育英会の共催で毎年行われており、「現代大学生の姿を正確に理解し、かつ現代社会を力強く生きていける学生を育てるために正課・正課外教育、キャリア教育(を包含した大学教育全体)に求められている課題は何かを包括的に検討していく」ことを趣旨とし、教育改革、キャリア教育等に携わっている教職員関係者、高校での進路指導等に携わる教員関係者、企業の人事部などの多くの参加者を集めている。

安西祐一郎氏(日本学術振興会理事長)の基調講演は、グローバル化による経済等の変化の影響で企業がどう変わり、大学や大学生をとりまく状況、そして対応の方向性について簡潔に述べていた。要約すると、多様性・共有性・創造性といった現代の潮流・特徴の中で、人材育成のポイントは、自ら考え自ら行動し背景の違う者と協力できるチームワーク力、互いを理解し諸問題を解決するための合理的・開放的・臨機応変的コミュニケーションスキル、学び続けられる力、専門知識の基礎を実用に耐えるよう叩き込むこと、そして主体性を育む学習環境が必要になってくる。主体性とは自分の目標を自分でみいだし実践する力で、これは学習継続力、内省力、創造的思考・実践力、チームワーク力をもたらすと考える。アメリカの有力大学を中心に提供されるMOOC(Massive Open Online Course)は、学びたい者がいつでもどこでも自分のペースで学べ、学びの内容を共有し議論し、学習環境を組み合わせ多角的に学べることができ、まさに主体性が前提となるもので、これが大学(教育)に与えるインパクトは計り知れない。

一方で戦後日本の大学は、イノベーテイブな生産性向上に対応できず、若い世代に必要な教養と知識・スキルを与えられず、(各種調査データから読み取れることとして)目標を持てず自分で勉強する力のない学生を大量に産み出してきたという意味で終末期を迎えたわけで、近年の大学改革のポイントである主体的に学ぶ力や豊かな対人関係・活動性等を生む大学教育の成果をいかにもたらすかが問われている。高校における幅広い学習の確保や高校生の学習意欲の喚起など高校教育の質保証、および志願者の学力・適性等の多面的評価など大学入学者選抜の改善を含めて、教員自身が自分の教育方法を要と考え主体的学修とチームワーク養成を教育目標とし、大学のカリキュラムの可視化を徹底し、学修システムを構築し、多様性のある主体的学習者教育研究水準の高い教育者が集まる場(社会性に満ちた教育の場)注1への抜本的転換が求められているといえよう。

溝上慎一氏(京都大学高等教育研究開発推進センター)による報告「大学生の学び・キャリア」では、京大生の就職活動調査にもとづき就活に苦しんでいる(裏返すと社会で求められるコンピテンシーを獲得できていない)ことを紹介した上で、大学が教育改革を進めても主体的に学ぶ力や将来への意識を持たない学生は成長しない確立が高いことが分かってきたと述べる。それは、授業プラス授業外学習を積極的に行うタイプ、および授業プラス自主学習を積極的に行うタイプは、(社会で求められる)知識・能力の獲得の度合いが、教室外学習がほとんどないそれ以外のタイプに比べ概ね高いことが調査結果(京大センター電通によるリサーチ、国公私立大生2652名、2010年実施)で表われているという。さらに関連して、将来の見通しがあるかどうか、また何をすべきか理解し実行しているかどうかという点でタイプ分けし、比べた結果「見通しあり・理解実行」タイプは授業内外で身に着けた知識能力の度合は他のタイプよりも全体的に高いこと、分野別では文科系は「見通しあり・理解不実行」、理科系は「見通しなし」が、医療系は「理解実行」が相対的に多く、この二つの観点(大学生ライフ)が学習動機に影響を及ぼすことが示されていて、上記の安西氏の報告で提起されたことと相俟って、大学教育改革のあり方を検討する上でインプリケーションに富む情報である。

企業での働き方・人材活用あるいは採用も以前と比べ大きく変化してきている。企業側の立場で、採用状況の変化についての田中潤氏(ぐるなび人事部)の報告によれば、暗黙の前提となっていた新卒採用が崩れてきていること、採用にあって、かつてのような優秀な人材を(単に)大量に確保するから、必要な人的リソースをタイムリーにかつ合理的コストで質量ともに確保していく必要が出ている中にあって、実際の面接場面(業務)も大きく様変わりしており、大学、学生ともに必要な学びとは何かを考えることも含め、相応の対応が求められていること、また企業(人事)側も、働くことはどういうことかを伝えることも採用活動の大切な機能として考え、大教室での授業のような現在の会社説明会のやり方の改革も含め、真剣に採用活動の在り方を検討し、実行に移していくべきであると主張する。

変わる企業、求められる能力とそれからみたときの大学生の今を、正確に把握した上で、学生に何を経験させるべきか(経験させたいのか)、そのために必要なことはなにか、関係者間での対話と連携協力が求められている。

 

※注1 こうした教育の場の形成を実験的に行うものとして、明治大学等東京の有力私立大学6校とサントリ・資生堂等有力企業複数社が産学共同で、大学1年生から提供し実践しているfuture Skills Project(1学期間に2企業が答えのない問題を提示し、グループワーク方式で授業を重ねていく。単位取得を認めている)があり注目すべき取組といえる。

(文責 評価システム研究部門 渡辺達雄)

 

 

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大学教育開発・支援センターに、全国の大学や大学教育センター等から各種報告書が届いております。また高等教育関連図書を購入しています。図書資料は、図書室(総合教育1号館6階613号室。センター共同研究室向かい)に所蔵しております。ご関心のあるもの、参照したいものがございましたら、お貸しすることができますので、ご連絡いただければ幸いです。

・Sue Fortaty Young、土持ゲーリー法一監訳『主体的学びにつなげる評価と学習方法』東信堂、2013年

・P.H.アルトバック他編、米澤彰純監訳『新興国家の世界水準大学戦略-世界水準をめざすアジア・中南米と日本』東信堂、2013年

・平尾智隆他編著『教育効果の実証-キャリア形成における有効性』日本評論社、2013年