【No.462】
科学研究費補助金による研究「学習意欲を高める授業科目が教育成果全般に及ぼす影響とその評価」を終えて-その3-

○●○科学研究費補助金による研究「学習意欲を高める授業科目が教育成果全般に及ぼす影響とその評価」を終えて-その3-○●○

 須藤靖氏(宇宙物理学者・東京大教授)は、サルマン・カーン著『世界はひとつの教室』(ダイヤモンド社)の書評(読売新聞6月16日)を「高校では5割、大学に至っては7割程度の講義は、お世辞にも有益とは思えなかった。しかしこれはそもそも従来型の一斉教室授業スタイルの限界なのだ」という言葉で始めている。「税金による公的義務教育は18世紀のプロイセンに端を発する。生徒を教室に集めて一方的に講義を聴かせるスタイルは、忠実で従順な市民を生み出す狙いで考案されたようだが、万人に教育を提供する効率的方法だったのも事実。それが現在に至るまでそのまま継承されてきた事こそが問題である」とのことだが、教室という場であっても可能な限りグループワークなどを取り入れた授業にしていくのは当然である。授業方法改善として各種のアクティブ・ラーニングに関し、週刊センターニュースでも頻繁に取り上げてきたところである。

 さて、須藤氏は「オンライン教育サイトには、いったんどこかでつまづくと、もはやそこに立ち返ることが困難な一斉教室授業スタイルの制約もない。誰もが自分のレベルと興味に応じて、無料でいつでも自由に学習できる。1単元10分程度にまとまったビデオ教材を完全に理解するまで反復して次の単元に進める」と、オンライン教育についても言及している。

受講登録した当初は動機が明確で学習意欲もあった科目が、ある回のある項目から分からなくなり、意欲が持続しなかったという経験は、学生たちの多くに共通するだろう。教員は、受講生が予習資料を読み、復習課題で確認すればそのようなことはないはずと思っている。だが、肝心の授業では、90分の間に、学生が聞き逃してしまうこと、聞き間違えて誤解してしまうことが起こる。オンラインのビデオ教材であれば、それは防止できるというわけである。

無料オンラインのビデオ教材「ムーク 英語表記はMOOC(Massive Open Online Courses)」について、朝日新聞3月6日は「教育をタダにする オンライン授業の衝撃:上 学びの革命、世界が舞台」との見出しで紹介している。

記事の冒頭で「体を張った物理学の講義で知られる、米マサチューセッツ工科大学(MIT)の名物教授ウォルター・ルーウィン氏(77)は、無料オンライン講座「ムーク」の誕生を歓迎している。『15世紀の印刷機の発明に匹敵する革命だ。私の目的は、地球上の10億人に教育を提供することだ』」。MITが米ハーバード大と昨春から始めたムークの講座でルーウィン氏は「初級の物理学を教える。最初の動画で、受講生にこう呼びかけた。『もし君が物理嫌いな学生でも、それは君のせいじゃない。運悪く腕の悪い先生に当たっちまっただけだ。私が君を物理大好き人間にしてみせる。君たち全員だ。人生が変わること請け合いだ』」。たいした自信である。

 記事によると、「ムークでは、教員が講義の動画やスライド、資料を配信し、受講生は名前やメールアドレスを入力すれば誰でも無料で受講できる。大学の講義を単に撮影した動画ではなく、メリハリをつけて10分程度に編集され、ミニテストで理解度を確認しながら進める形式が多い。週に5~10時間ほど、3~4カ月間受講し、宿題や試験で基準に達すれば修了証を入手できる。英語による講座が多いが、人気講座は利用者らが勝手に字幕を付けて拡散するため、10を超す言語で見られる動画もある。こうして、世界のすみずみまで一流大の授業が広がり、あらゆる地域の意欲ある受講者とつながっていく。1年間で受講生は計450万人を超えた。」とのことである。

 大学教育へのインパクトは大きい。「優れた教材をネットで見た優秀な学生が入学してきた。人目にさらされる緊張感から教材の質も上がる」その結果、例えば、「授業『電子回路』は15万人が受講。繰り返し出る課題を提出し4カ月間の授業を最後まで受講したのは7千人。最終スコアで満点を取ったのは全受講生の0.2%、340人。『優秀な成績を修めた生徒には、我々の大学を受験するよう働きかける。秀才を発見し、受験を勧められるのだから大学には大きな利益』」となる。4学期制で留学し易くすること、秋入学で留学生の受け入れ環境を整備することも大事であるが、肝心なのはどう分かりやすい授業内容(世界の大学教員を相手に比べても遜色がない程度)にするかである。FDも授業内容の改善のためであった。方法改善も手段でしかない。ネット空間の授業内容による学生争奪競争である。面白い時代になってきた。(文責 教育支援システム研究部門 青野 透)

●○●第15回FD研 究会・第21回学生・学習支援研究会開催のお知らせ●○●

日時:2013年8月5日(月)16時30分~18時

場所:金沢大学角間キャンパス 総合教育1号館2階大会議室

テーマ:「高校における生徒の学習意欲向上の取組―共同研究「学習意欲を高める授業科目が教育成果全般に及ぼす影響とその評価」の成果として―」

講師:松田 淑子 福井大学教育地域科学部教授 金沢大学教育学部卒。金沢大学大学院教育学研究科修了、教育修士。金沢大学教育学部附属高等学校にて「家庭科」及び「総合的な学習の時間」を担当。2007年より福井大学准教授。教職大学院の創設に関わる。大学院教育学研究科(教科教育専攻・生活科学教育領域)教授。2012年より現職。金沢大学大学教育開発・支援センター客員研究員。

趣旨:昨年8月28日、文部科学大臣より中央教育審議会に対し、「大学入学者選抜の改善をはじめとする高等学校教育と大学教育の円滑な接続と連携の強化のための方策について」が諮問され、これを受けて高大接続特別部会が設置され、審議が行われている。同日の「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて~生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ~(答申)」において、大学それ自体の教育の質的転換のためには、高校教育との接続・連携がこれまで以上に求められるとの認識が示されたからである。

 当センターでは、前年度まで5年間、科研費による助成を得ての研究「学習意欲を高める授業科目が教育成果全般に及ぼす影響とその評価」(研究代表者:青野透)を行ってきた。その中で、高校教育における学習意欲を高める取組に優れたものがあることを学ぶことができた。今回の研究会では、研究分担者として「探究基礎」科目による京都市立堀川高等学校への訪問調査などをしていただいた松田淑子福井大学教授に、高校における先進的取り組みをご紹介いただく。なお、松田教授は既に、「『総合的な学習の時間』と高大接続」『週刊教育資料』1342号(2012年6月)などにおいて関連報告をご発表済みである。

生徒・学生主体の学びとそれに対する切れ目のない学習支援こそが学習意欲の持続につながると思われる。報告と質疑応答により、高校教育および大学教育にとっての望ましい高大接続について考察を深めたい。